人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2011-01-01から1年間の記事一覧

鮎川信夫『繁船ホテルの朝の歌』

今回は戦後日本の現代詩屈指の一篇をご紹介する。鮎川信夫(1920-1986・東京生まれ)は戦前から詩作を始め、除隊後に詩誌「荒地」の中心となった。作風はエリオット、オーデンの影響が強い。 『繁船ホテルの朝の歌』 ひどく降りはじめた雨のなかを おまえはた…

続(1)・江戸川乱歩の功績と大罪

乱歩のイメージ戦略は近年で言えば松任谷由実、矢沢永吉といったポピュラー歌手を思わせるもので、これは成長期にあった日本のモダニズム=都市志向と踵をあわせたものでした。これも前回比較したヴァン・ダインと同様です。 ヴァン・ダインはニューヨークの…

石垣りん『家』

石垣りん(1920-2004・東京生まれ)には前回ご紹介した『私の前にある鍋とお釜と燃える火と』とは打って変って辛辣極まりない作品もある。ご紹介する詩『家』は関東大震災で生母を失い、小学校卒業で銀行に勤め、父の再三の再婚と異母弟妹や祖父母の介護に戦時…

中庭のトラフィック・コーン

なぜか数日前からマンションの中庭にこいつが転がっている。写真に撮るといかにも間抜けで、およそ威厳というものがまるで感じられない。なぜだろう?本来これはこんなふうに、交通などなにもないところに横転しているべき物体ではないからだろうか? ところ…

高橋睦郎『一九五五年冬』ほか

後年は古今東西の古典に通じた学匠詩人の風貌を隠さなくなったが、高橋睦郎(1937-・北九州生まれ)は1歳下の歌人・春日井健(歌集「未青年」1960)と並んで初めて日本で本格的なゲイの詩集を上梓した詩人。第一詩集「ミノ・あたしの雄牛」'59、第三詩集「眠りと…

(再録/2) 江戸川乱歩の功績と大罪

前回の記事では江戸川乱歩(1894-1965)の功績と大罪についてまとめから入っていきました。 「乱歩が亡くなった時、関係者だれもが胸を撫で下ろした、と書いたのは乱歩の抜擢で探偵小説出版社「宝石社」から「日本版ヒッチコック・マガジン」編集長に就任した…

吉岡実『劇のためのト書の試み』

今回はすごいのをいく。まずは作品を。どうすごいかは、読んでみればわかる。この詩人にとってはこれがアヴェレージ作というのも念頭におかれたい。作者にとっては特に力作でも何でもないのだ。 『劇のためのト書の試み』 それまでは普通のサイズ ある日ある…

初稿再録・夜ごと太る女のために

タイトルは70年代イギリスの渋いロック・バンド、キャラヴァンのアルバム'For Girls Who Grow Pump In The Night'(1973)より。アルバム・ジャケットは笑みを浮かべて熟睡する女性の寝姿でしっとりと上品、音楽も緊張感とくつろぎの配分がほどよく曲もアレン…

菅原克己『ブラザー軒』

菅原克己(宮城県生まれ、1911-1988)は戦後に遅咲きの詩人デビューを果たし、第一詩集「手」の刊行はようやく40歳になってからだった。生年からも想像できるように、青年時代をまるまる戦時下で送ったことになる。代表作『ブラザー軒』は発表後たちまち現代詩…

やらねばならぬときがある( 前篇)

東京MXテレビでは毎週日曜午後に月ごとの特集でノーカット放映があり、溝口建二やウッディ・アレンなどがラインナップなので今日も楽しみにしていた。そしたら予告なしに都議会の録画放映に差し替えだったので、テレビの前で唖然とした。さてこれからビター…

石垣りん『私の前にある鍋と…』

石垣りん(1920-2004・東京生まれ)が第一詩集「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」1959以来、銀行員の勤めのかたわら10年ごとに刊行した詩集は、すべて現代詩の古典として永く愛読者を獲てきた。生涯独身を貫き、詩集4冊・エッセイ集3冊を遺す。石垣以前には…

(再録/1) 江戸川乱歩の功績と大罪

ぼくも「怪人二十面相」シリーズ、というかポプラ社の少年少女向け江戸川乱歩(1894-1965)全集が小学校中学年の愛読書で、図書室・図書館から借りて全巻読破したものです。乱歩が亡くなった時、関係者みんなが胸を撫で下ろした、とそのひとりが書いています。…

吉田一穗『白鳥』

吉田一穗(1898-1973)は北海道出身。1926年第一詩集「海の聖母」刊行。優雅で古典的な作風から出発した。 その後詩人は「故園の書」1930でアナーキズムに接近し、「稗子伝」1936で作風を確立、全詩集形態の「未来者」1948、「羅句薔薇」1950を経て「吉田一穗…

モーツァルトの死因について

(図版掲載図書は近年のモーツァルト本のヒット作です。本文とは関係ありません) 10年ほど前にNHKの記録映像シリーズで、思わず慄然とするようなニュース映像を見た。それは小学生の集団予防接種の光景で、肩から上は見えない構図で小学生たちが一定のペース…

モダニスト・北園克衛

北園克衛(1902-1988)は三重県生まれの詩人。生涯を独自の実験詩運動に打ち込み、戦後は主宰する「VOU」誌で総合的なアートを志向し一部の詩人たちにとってのカリスマになった。 実は北園は長年、悪しき前衛の標本として評判が悪かった。それは第一詩集の次の…

夜ごと太る女pt3 ・考察/分析篇

##さんこんにちは。昨日のエッセイを書くにはポルノ的にならないか、彼女に一方的にならないか、のろけ話にならないか気を使いました。ただですら不倫が題材です。しかし本当の主題は真剣なものです。人と人の心は、なぜすれ違ってしまうのか? それはぼくが…

昨日買ったCD

娘たちへのクリスマス・プレゼントもお年玉も確保したし、来月の受給日までは生活費を措いてもだいぶ余裕がある。そこでネット通販で中古CDと古本を注文した。古本は「群馬文学全集」の大手拓次・岡田刀水士(詩人)の卷で、この2人で文学全集の1冊をまるまる…

夜ごと太る女pt2・不倫大国篇

夜は冷えるので冬場は昼のシャワーにしている。湯上がりにテレビ放映の「マッド・マックス」を見ていたら、CMでいきなり「不倫大国・日本!そんなあなたに…」と羽毛布団、「これでぐっすり眠れます」。なんだ、不倫じゃなくて不眠だったのか。こんな聞き違い…

中断連載のゆくえ

今年も踏んだり蹴ったりだった。なにも今年に始まったことではない。なにしろ主治医に「何度死んでいてもおかしくないよなあ」と言われる身で、その都度主の御手がぼくを救い上げてくださるのだった。主は格別生きる望みもない人間はぎりぎりまで放っておい…

萩原恭次郎『長い髪に…』

今回ご紹介するのは萩原恭次郎『長い髪によごれたリボンを結んであそぶ彼の女』。長いタイトルだが、これもダダイズムらしい。詩人の経歴をおさらいしておこう。 萩原恭次郎(1899-1938)は群馬県生まれ、高橋新吉(1901-1987)とともに日本のダダイズム詩を代表…

冬来たりなば

このブログを始めたのは確か今年5月の中旬で、ぼくは恋愛の終りで(覚悟の上とはいえ)鬱になり、読書も駄目なら日記も書けなくなっていた。ところがなぜか携帯サイトなら読めてヤフー・ブログの存在を知り、初めてブログを始めるにいたったのだった。 「普通…

石原吉郎『位置』

スキンヘッドの戦後詩人・石原吉郎のプロフィールは前回紹介した。49歳から62歳まで8冊の詩集と句集・歌集が各1冊、批評とエッセイが5冊。遺稿はよく整理され、急逝後ただちに全3卷の全集が刊行された。まるで望遠鏡を逆さに覗いたように、詩人の全業績はす…

失くしたセーターのゆくえ

日曜の朝は例によって子供向けの特撮ヒーローと美少女戦士アニメを見て、教会で礼拝をやっている時間は静かに黙想する。今日は風こそ強いが気温は高くてホッとする。 買い物に行き、サンドイッチのお昼を済ませて、午後は家計簿から始める。東京MXテレビの12…

世界の10大映画(蓮実重彦選)

淀川長治・蓮実重彦・山田宏一共著「映画となると話はどこからでも始まる」から淀川氏・山田氏の世界映画ベスト10はすでに紹介した。映画ベスト10というのはその人の映画観を端的に顕すから、癖のある人は徹底的に癖がある。同書の本編を占める座談会ではい…

小熊秀雄『約束もしないのに』

小熊秀雄の最高の詩は「小熊秀雄詩集」「飛ぶ橇」(ともに1935)の2冊の詩集にある、だが晩年の衰弱した詩にも捨てがたい魅力がある、という小熊秀雄評価もあるだろう。ドアーズの傑作は最初の2作のアルバム「ハートに火をつけて」「まぼろしの世界」(ともに19…

世界の10大映画(山田宏一選)

今回も淀川長治・蓮実重彦・山田宏一共著「映画となると話はどこからでも始まる」1985の世界映画ベスト10の話題。故・淀川氏のベスト10は前回紹介した。 山田宏一氏(1938-)は日本の映画批評界でもっとも尊敬されているひとり。60年代をパリ留学で過ごし、「…

新しいセーター

正確には新しくない。古着である。食料品の買い物をする路の途中に衣類や小物中心の小さなリサイクル・ショップがあって、今日は暖かくて体調もいいことだし、迷うほど品目も多くない店なので寄ってみた。ぼくみたいな中年男を周囲に埋没させてくれるような…

世界の10大映画(淀川長治選)

淀川長治(1909-1998)は神戸出身の映画評論家・解説者。「日曜ロードショー」では今も故人の映像がジングルに使われるくらい愛された映画人であり、戦前からのプロモーターとしての業績、雑誌「映画の友」編集長としても、日本の外国映画受容史は故人とともに…

萩原恭次郎『日比谷』

萩原恭次郎(1899-1938)は群馬県生まれ、高橋新吉(1901-1987)とともに日本のダダイズム詩を代表する詩人。第一詩集「死刑宣告」1925の刊行は高橋の第一詩集「ダダイスト新吉の詩」1922以上に新しい詩の事件として迎えられた。同郷の萩原朔太郎(姻戚関係はない…

世界の10大映画(D・リチー選)

サマーセット・モームに「世界の10大小説」という文学入門があるとはいえ、大それたタイトルだ。「世界の10大映画」、この世に映画が現れて以来どれほど多くの名作駄作が送り出されてきただろうか。 だがドナルド・リチー氏(1924-、以下敬称略)という日本通…