人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

永井荷風訳ボードレール『憂悶』

『憂悶』 シャアル・ボオドレエル 永井荷風訳 大空重く垂下がりて物蔽ふ蓋の如く、 久しくもいはれなき憂悶(もだえ)に嘆くわが胸を押へ、 夜より悲しく暗き日の光、 四方閉す空より落つれば、 この世はさながらに土の牢屋か。 蟲喰みの床板に頭打ち叩き、 鈍…

ジュセッピ・ローガン健在なり。

この人(図版上)はぼくのアマチュア・ジャズマン時代の憧れのひとりだった。フリー・ジャズの温床ESPレーベルの第1回リリース(1964年)にアルバート・アイラー・トリオらと共に選ばれ話題となったものの(図版下)、翌年の平凡な第2作で消えていった。ちなみにロ…

日記(4月13日・金曜/晴れ)眠い日

カレー皿は割ってしまったが平皿ならある。カレーをご飯で囲むように盛りつければなんとかいける。スパゲッティは自分勝手に円盤形に丸まるが、ソースと絡めれば崩れない。得意な人なら簡単に解析した方程式を書きそうだ。もっともご飯とパスタでは力学的に…

ケネス・アンガー作品解説

アンガー作品はほぼ3つの系統に分けられるだろう。まず第1に耽美と退廃・フェテシズム的な作品。 ○花火'Fireworks'1947(16ミリ・15分・B/W=上) ○プース・モーメント'Puce Moment'1949(16ミリ・6分・カラー) ○ラビッツ・ムーン'Rabbit's Moon'1950/1979(35ミ…

日記(4月12日木曜/晴れ)桜と皿と

月曜が受診日だった。精神科の前に内科に寄って高尿酸血症(今月からこっちになった)の問診と採血。30cc採血されるといつも頭に牛丼一杯のイメージが思い浮かぶ。 半年ぶりに体重計に乗る。75キロ!着衣とはいえ半年で20キロ増。服薬の副作用と鬱続きのひきこ…

富岡多恵子詩集「女友達」より

『静物』 富岡 多恵子 きみの物語はおわった ところできみはきょう おやつになにを食べましたか きみの母親はきのう云った あたしゃもう死にたいよ きみはきみの母親の手をとり おもてへ出てどこともなく歩き 砂の色をした河を眺めたのである 河のある景色を…

マジック・ランターン・サイクル

今回はケネス・アンガー(Kenneth Anger,L.A.1930-)の後篇。決定版2枚組DVD全集「コンプリート・マジック・ランターン・サイクル」'The Complete Magick Lantern Cycle'2010収録の中短篇全10作(1947-2002)をご紹介する。 アンガー作品は最新作だけ21年のブラ…

堀口大學訳アポリネール詩集

『病める秋』 ギョオム・アポリネール 堀口大學訳 病んで金色をした秋よ お前は死ぬだらう 柳川原に嵐が荒ぶ頃 果樹園の中に 雪がふりつもる頃 哀れな秋よ 死ね 雪の白さと 熟した果実の豊かさの中で 空の奥には 鶻(はやぶさ)が舞つてゐる 恋をしたことのな…

追悼キャプテン・ビーフハート

つい先日ヴェルナー・シュレーターの1年遅れの追悼をしたが、昨夜ネットショップでCD物色中ユーザーレビューに目を疑った。キャプテン・ビーフハートについてだが「83年に音楽界を引退、モハービ砂漠のアトリエで画業に専念」それは知ってる。「2010年には浮…

渋沢孝輔「漆あるいは水晶狂い」

『水晶狂い』 渋沢 孝輔 ついに水晶狂いだ 死と愛とをともにつらぬいて どんな透明な狂気が 来りつつある水晶を生きようとしているのか 痛いきらめき ひとつの叫びがいま滑りおち無に入ってゆく 無はかれの怯懦が構えた檻 巌に花 しずかな狂い ひとつの叫び…

映画作家ケネス・アンガー

L.A.のアンダーグラウンド映画作家ケネス・アンガーの処女作は17歳(1947年)、21年ぶりの最新作は2002年、全作品を収録した定本DVD2枚組全集'The Complete Magick Lantern Cycle'(図版上)の発売は2010年だからそのキャリアは戦後すぐから現在までをカヴァーす…

上田敏訳ラフォルグ『冬が来る』

上田敏晩年の功績は象徴詩末期の自由詩の先駆者ジュール・ラフォルグ(1860-1887)の紹介だろう。 『冬が来る』 感情の封鎖。近東行の郵船… ああ雨が降る、日が暮れる、 ああ木枯の声… 万聖節、降誕祭、やがて新年、 ああ霧雨の中に、煙突の林… しかも工場の… …

米アンダーグラウンドの男色映画

前後篇に分けてご紹介したい。この前篇は後篇のための前振りで、後篇の主役ケネス・アンガー(下)こそがアメリカのエクスペリメンタル(実験的)アンダーグラウンド・ゲイ(Queerと呼ばれる方が多い)・シネマ空前の大物だった。そのキャリアは1947年(17歳!)~現…

岡田隆彦詩集「史乃命」

『史乃命』 岡田 隆彦 喚びかける よびいれる 入りこむ。 しの。 吃るおれ 人間がひとりの女に こころの地平線を旋回して迫っていくとき、 ふくよかな、まとまらぬももいろの運動は 祖霊となって とうに おれの囲繞からとほくにはみでていた。 あの集中した…

ベティ・アーマン' アスファルト'

実にいい感じだ。図版3点並べてみただけで大都会を舞台にした(大戦間ベルリン)純情な青年とアバズレ美女(ベティ・アーマン/Betty Amann,1905-1990)の悲恋が浮かび上がってくる。90分の映画だがテンポがいいので短く感じる。 ついこないだからYouTubeはサイレ…

上田敏訳マラルメ『白鳥』

『白鳥』 ステファンヌ・マラルメ 上田敏訳(未定稿) 純潔にして生気あり、はた美はしき「けふ」の日よ、 勢猛き鼓翼の一搏に砕き裂くべきか、 かの無慈悲なる湖水の厚氷、 飛び去りえざりける羽影の透きて見ゆるその厚氷を。 この時、白鳥は過ぎし日をおもい…

仏サイレント期の閨秀映画作家

「けいしゅう」と打っても「閨秀」は出ない。ろくに本も読んでいない携帯だ。恥ずかしい。 念のため註記すると、閨秀とは才女という意味です。秀でた閨(=女性)と逆さ読みだから漢文由来ですね。本当? フランスの女流監督ではアニエス・ヴァルダが有名だが…

吉増剛造詩集「黄金詩篇」

現役詩人のなかで巨匠格にしてもっとも旺盛な活動を続けているのが吉増剛造(1939-・東京生れ)で、国際的評価も高く、もし次のノーベル文学賞が詩人から選出されるなら最大の候補と目される。作風はシュールレアリスムとビートニクの影響が強いが数行でこの人…

追悼ヴェルナー・シュレーター

昨年4月に亡くなっていたのを昨晩偶然に知った。Werner Schroeter(1945-2010・写真上)、ドイツの映画監督。ヴェルナー・ファスビンダーの証言では、70年代の独ニュー・シネマは自分も含めてほとんどがシュレイターの革新性から出発したという。日本で人気の…

永井荷風訳ランボー詩集

実は筆者は荷風には心酔していた時期もあればすっかり興醒めしていた時期もあり、現在は全体的な評価は留保したい気持でいる。荷風の文体の現代性はかなり偶然で、当時の小説家としてはかなり粗雑と言ってよく、それがかえって荷風の文体を長持ちするものに…

サイレント映画はいかが?

といっても今話題のアカデミー賞受賞作の話ではない。どうせ「ペーパームーン」1973や「グッドモーニング・バビロン」1987のような'狙った'映画だと思っている。その証拠にサイレントはおろかろくろく映画史を知らない人が安易に絶賛している。サイレント時…

「罐詰同棲又は陷穽への逃走」

タイトルから既に悪意が感じられる。詩人・鈴木志郎康(1935-・東京生れ)は当時NHK地方局勤務のカメラマン。これは処女詩集「新生都市」1963に続く第二詩集(1967)。この詩集の出現は吉岡実の第三詩集「僧侶」1958以来の衝撃を現代詩の世界にもたらした。吉岡…

日記(4月3日・火曜・雨)

掲載ジャケットで今日のネタギレ感はおわかりいただけると思う。アーティスト名がデザインされていませんね。このバンドは72年のデビュー以来リーダーの卓越した作曲力でヒット連発(甲斐よしひろ曰く「日本のレイ・デイヴィス」)、70年代だけでも16枚のアル…

永井荷風訳ヴェルレーヌ詩集

『ましろの月』 ポオル・ヴェルレエン 永井荷風訳 ましろの月は 森にかがやく。 枝々のささやく声は 繁みのかげに ああ愛するものよといふ。 底なき鏡の 池水に 影いと暗き水柳。 その柳には風が吹く。 いざや夢見ん、二人して。 やさしくも、果し知られぬ …

ビートルズのサイン

これがミュージック・ライフ誌がビートルズ現役時代にもらってきたサインで、「To Rumi」とあるのは星加ルミ子編集長のことだ。実物大ということか、ひとり1ページずつどーんとサイン(と顔写真)だけ載せてある。今では考えられない大胆不敵な誌面構成だが、…

堀川正美詩集「太平洋」

今回紹介する堀川正美(1931-・東京生れ)の第一詩集「太平洋」1964からの一篇は戦後現代詩屈指の傑作として揺るぎない評価を得ているが、現代詩に興味のない人はさっぱり知らないのがこの詩人でもある。ミュージシャンズ・ミュージシャンという言葉が音楽の世…

卑し系ブリティッシュ・ロック

ジャケット写真がすべてを語る。3組ともイギリスのロックバンドの1970年のアルバム(1枚だけ71年)で、70年といえばビートルズ解散、ツェッペリン、パープル、サバスらのハード・ロック勢も、フロイド、クリムゾン、イエスらのプログレッシヴ勢もブレイクし、…

永井荷風訳ボードレール詩集

『死のよろこび』 シャアル・ボオドレエル 永井荷風訳 蝸牛匍ひまはる泥土(ぬかるみ)に、 われ手づからに底知れぬ穴を掘らん。 安らかにやがてわれ老いさらばひし骨を埋め、 水底に鱶の沈む如忘却の淵に眠るべし。 われ遺書を憎み墳墓をにくむ。 死して徒に…

大友克洋「童夢」

大島弓子の続編はいずれ。今回は大友克洋「童夢」1982です。この作者の代表作は「AKIRA」(全6巻)が知名度では勝るが、全1巻のなかで存分に描ききった作品としての凝縮度は「童夢」に軍配があがる。83年第四回日本SF大賞受賞。 刊行年を書いて遠い目になって…