人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧

アル中病棟入院記214

(人名はすべて仮名です) ・5月9日(日)晴れ (前回から続く) 「一服終えて勝浦くんとデイルームの席でテレビを観ながら他愛ない雑談をしていると、勝浦くんが急に表情を引きつらせてこちらの肩越しを指す。姿勢を正すふりをして中腰になって座ると、背後にいつ…

偽ムーミン谷のレストラン(22)

誰だ私を呼ぶのは? …ほーらおいでなさった、大体こうなることは予想していたのだ。こうなれば誰かが名乗り出ないと収拾がつかなくなるぞ。 いったいどういう事態なんですか?ご存じならわれわれにもわかるように説明してくださいよ。 誰だ私を呼ぶのは? そ…

バド・シャンク(as,fl)のよくわからない魅力

[Bud Shank Quartet-The Bag of Blues]56.1.25 http://m.youtube.com/watch?v=6lEDliZP4Fw まずは一曲、これが画像掲載のアルバム「バド・シャンク・カルテット」のLPではA面1曲目、CDでも冒頭の曲になる。バド・シャンク(1926~2009)はロサンゼルス生まれの…

アル中病棟入院記213

(人名はすべて仮名です) ・5月9日(日)晴れ (前回から続く) 「風呂騒動は昨日の話で、今日はさらにひと悶着あった。佐藤さんが日直の手順を訊きにきたので掲示板の前で説明した。佐藤さんは過去数回の入院歴があり、それはもう驚かなくなっていたし、入院する…

偽ムーミン谷のレストラン(21)

第三章。登場人物・承前。ムーミン。ムーミンパパ。ムーミンママ。―以上核家族。スノーク。フローレン。―以上兄妹。ヘムレンさん・ジャコウネズミ博士。―以上学者仲間。トフスランとビフスラン夫婦。―以上双生児夫婦。ヘムル署長。スティンキー。―以上警官と…

アンドレ・ジッド(7)ジッドの日本受容~文学界というグループ

菊地寛の肝入りと川端康成の後見で発足した文学界グループは小林秀雄をボスとした文学エリート集団で、フランス文学専攻のメンバーが多く、彼らによるアンドレ・ジッド(1869~1951)の位置づけは戦前だけでも三社から『ジイド全集』が刊行された昭和10年まで…

アル中病棟入院記212

(人名はすべて仮名です) ・5月9日(日)晴れ 「母の日。今年は義母にも娘たちの母へも花は贈らずに済ます。この週末の帰宅外泊患者は坂部、金子、尾崎さんの三人だけというのも珍しいが、尾崎さんは気性の良い人だからともかくとして、何かにつけて他人に絡み…

うおおおおーっ!

圧倒的な戦闘力の差に窮地に陥ったアクション仮面は子どもたちの声援を受けてうおおおおーっ、と絶叫するのだが、パラダイスキングは吠えれば強くなるのかよ、と嘲笑・一蹴して再び攻撃を繰り出す。しかし本当にアクション仮面は吠えると共に覚悟を固めて強…

アンドレ・ジッド(6)『文学界』グループからの評価

19世紀末の文学思潮を正確に批判し20世紀に橋渡ししたことで、アンドレ・ジッド(1869~1951)は20世紀のちょうど前半に一種の規範とされる思想家的作家と見なされていました。新潮社版の翻訳全集や日記が配本中にジッドは81歳で逝去しましたが(51年二月)、同…

アル中病棟入院記211

(人名はすべて仮名です) ・5月8日(土)晴れ 「朝の会は山崎さんの転院のあいさつ。もう肝癌がステージ4に進行していて延命措置の可能性しかない、と本人の口から淡々と告げられる。皆さんも引き返せるうちに引き返してください、と結ばれると沈鬱な拍手で送…

前歯損失

七年前に全歯の治療を受けて全歯が義歯になった。以来奥歯に根元まで虫歯が進行して二本が入歯になったが、これは入歯をしていなくても食事・発音などまったく影響がない。逆に言えば、使わない歯だからこそ虫歯が進行したとも言えるかもしれない。 ところが…

アンドレ・ジッド(5)『ジイド全集』と戦後日本の出版事情

文学者としてのアンドレ・ジッド(1869~1951)は晩年には評価が定まっていたと言えて、翻訳版の決定版全集は50~51年にかけて刊行された全16巻の『アンドレ・ジイド全集』と、別売された500ページ×5巻に及ぶ『ジイドの日記』50~52年刊で、どちらも新潮社から…

アル中病棟入院記210

(人名はすべて仮名です) ・5月6日(木)晴れ 「朝の会では連絡事項が多く、滝口さんの退院のあいさつはどさくさ紛れに忘れられてしまった。早くも今日のうちに第三病棟から四名移室してくる。中嶋、島田、三上、佐藤と、一度に四人ではどういう人たちかもすぐ…

偽ムーミン谷のレストラン(20)

スノークくんはご存知ないかもしれんが、とジャコウネズミ博士は言いました、ヘムレンさんと私は併せて69もの学位を取得しておるのだ。これはわれわれ二人でムーミン谷に国際大学を開校するに十分な資格があることを意味する。 なるほど、私はその唯一の生徒…

頭の中の映画9/フェリーニ、アントニオーニ

地中海クルーズ中に失踪した大使令嬢アンナ。アンナの恋人で建築家サンドロ、アンナの親友クラウディアはアンナの行方を追う内に愛人関係に陥り、アンナ捜しの目的を失う上に恋愛感情も枯渇し行き詰まる。ベンチに座り込み嗚咽するサンドロ。立ったままでサ…

アル中病棟入院記209

(人名はすべて仮名です) ・5月2日(日)晴れ 「早く起きたら教会の礼拝に出席するつもりもあったが、夜更かしがすぎて寝坊して起きる。飲酒問題が起きたきっかけは教会の内輪揉めに首を突っ込んだからだったのだが、なにしろ入院していると反省時間が長いので…

頭の中の映画8/フェリーニ、アントニオーニ

ミケランジェロ・アントニオーニ(1912~2009)の『情事』はフェデリコ・フェリーニ(1920~1993)の『甘い生活』からわずか四か月後の、60年六月に公開されました。『甘い生活』が三時間ならこちらは二時間半の大作です。ただし国際上映ヴァージョンでは40分も…

アル中病棟入院記208

(人名はすべて仮名です) ・5月1日(土)晴れ 「梅崎さんの退院、それから入院以来初めての帰宅外泊。朝の会を終えて10時の解錠まで仕度して待ち、コンビニ横のバス停から10時17分のバスに乗る。町田駅までは長い。町田で寄り道せずに小田急線に乗り、下車して…

偽ムーミン谷のレストラン(19)

偽ムーミンはムーミンパパにさりげなく告げただけですが、そのひと言で思わずスノークとフローレン兄妹もぎょっとしてムーミン一家から目を逸らし、ヘムレンさんとジャコウネズミ博士も意図的に無視し、トフスランとビフスラン夫婦も双子であるのを忘れたよ…

頭の中の映画7/フェリーニ、アントニオーニ

今回もミケランジェロ・アントニオーニ(1912~2009)もフェデリコ・フェリーニ(1920~1993)の代表作を取り上げ、同時期の同傾向の作品とされることが多い両者をともに検討したいと思いますが、奇しくもアントニオーニ『さすらい』への回答とも言えるフェリー…

アル中病棟入院記207

(人名はすべて仮名です) ・4月30日(金)晴れ (前回より続く) 「定刻の午後二時きっかりになって呼ばれて集団療法室で待機させられ、滝口さんから先に検査になる。腹部エコーと胃カメラを同時に撮るのが普通なのか、それとも順番が後なので一気に済ませてしま…

偽ムーミン谷のレストラン(18)

ヘムレンさんは床に一辺が一メートル半の正三角形をチョークで描くと、それぞれの辺を二分割する位置に辺と交差する印を引きました。起き上がって描いた図形を眺め、 こんなものかな。ではお二人とも印のところに立っておくれ。条件は公平なはすだが、納得い…

偽ムーミン谷のレストラン(17)

ほら、と偽ムーミンはスプーンの底をスープの表面につけると、軽く押したり持ち上げたりしてみせ、もう皮ができてるよ。 ほう、とムーミンパパは皮肉な口調で、お前もいつの間にかずいぶん賢くなったようだな、われわれは良い息子を持ったものだなママや、し…

頭の中の映画6/フェリーニ、アントニオーニ

ミケランジェロ・アントニオーニ(1912~2009)もフェデリコ・フェリーニ(1920~1993)もルキノ・ヴィスコンティ『郵便配達は二度ベルを鳴らす』1942、ロベルト・ロッセリーニ『無防備都市』1945、ヴィットリオ・デ・シーカ『自転車泥棒』1948らが先駆をつけた…

アル中病棟入院記206

(人名はすべて仮名です) ・4月29日(木)晴れ時々狐の嫁入り・昭和の日 「祝日なので朝の会以外のプログラムは一切休み。朝食の席から今朝見た夢、という他愛ない雑談。高校生に戻って授業をフケる夢を見たのは、滝口さんが同じ高校の後輩とわかって母校の話な…

偽ムーミン谷のレストラン(16)

いやーこうやって黒ビールなどを飲んでいると、とムーミンパパは旨そうに喉を鳴らしながら言いました、私が冒険家だった頃の数々の思い出が胸をかすめて万感の思いがあるな。 どうしてなの?と偽ムーミン。別に興味があったから尋ねたわけではなく、思わせ振…

文学史知ったかぶり(13)

一般に、アメリカ初期自然主義を代表する作家にクレイン、ノリス、ロンドンの三人が上げられます。代表作から作風を検討してみましょう。 1.スティーヴン・クレイン(1871~1900) ・『街の女マギー』1893はアメリカ最初の自然主義小説とされます。ゾラの『居…

アル中病棟入院記205

(人名はすべて仮名です) ・4月28日(火)雨のち曇り 「早朝から採血されて二度寝、明日は祝日なので振り替えで今日シーツ交換があるから眠い目をこすりながらシーツをはがしていると冬村さんが、寝てると思ったら起きてたのか。予報通りに降りましたねと、朝食…

偽ムーミン谷のレストラン(15)

そういえばパパ、食事の前に飲み物頼んでなかったっけ?と偽ムーミンはとぼけてカマをかけました。急いで物置部屋でムーミンと入れ替ってきたので、細かいことまでは訊くのを失念していたのです。見たところテーブルにはそれらしきものはありません。 こうい…

文学史知ったかぶり(12)

ジェイムズ、トゥエインはリアリズムの範疇では語れませんが、ハウエルズやガーランドは作家の力量とは別に時代の文芸思潮を担った功績がありました。彼らの提唱したリアリズム小説という土壌がなければ20世紀にも直結する自然主義小説という現代文学の基礎…