人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#ノンフィクション、エッセイ

小説の絶対零度(7)ネルヴァル

これまでに「小説の絶対零度」として取り上げた作家たちの源泉は、すべてジェラール・ド・ネルヴァル(1808-1855、フランス)に行きつく。ボードレールやプルーストもネルヴァルの感化なしにはあれほど革新的な創作は不可能だっただろう。自己の精神疾患と、恋…

小説の絶対零度(6)ロートレアモン

ロートレアモンは筆名であり本名イジドール・デュカス(1846-1870、フランス)は無名の文学青年として長編散文詩集「マルドロールの歌」1869と「詩学」1870を刊行したが、当時パリは犬猫、鼠まで食肉販売されるほど未曾有の大飢饉に襲われており、無名詩人の自…

小説の絶対零度(5)デ・フォレ

ルイ=レネ・デ・フォレ(1918-2000、フランス)は生涯に長編小説「乞食たち」43、「おしゃべり」46と短編集「子供部屋」60のみの寡作家だったが生前のバタイユとブランショが絶賛したほとんど唯一の同時代作家で、晩年は認知度も高まり芸術院会員入りするなど…

小説の絶対零度(4)バタイユ

セリーヌ、ブランショときたらやはり「呪われた」作家としてジョルジュ・バタイユ(1897-1962,フランス)を上げないわけにはいくまい。バタイユの本領は「無神学大全」や「エロチシズム」などの思想家としての面にあるが、思想も小説もニーチェとフロイトを経…

小説の絶対零度(3)ブランショ

ベケット、セリーヌと来たらモーリス・ブランショ(1907-2003、フランス)は外せない。生涯写真一枚公けにせず、現代文学を読み解く上で必須である「エクリチュール」(書法)という概念はこの人の文学論集「文学空間」55で確立されたといえる。セリーヌどころか…

通院日記・9月24日(火)曇り

処方薬は種類自体は少ないが錠数は多いので、朝・晩と就寝前ごとにシートに分けてもらっている。これを分包(分包化)という。薬局ではパウチ用の機械を使ってこれを行うわけだが、患者(薬局だから客か?)が混んでいると当然待ち時間も長くなる。 一人や二人待…

小説の絶対零度(2)セリーヌ

ベケットに続いてフランス作家ルイ=フェルディナン・セリーヌ(1894-1961)をご紹介したい。医師を本業とした彼は、処女作「夜の果ての旅」32でセンセーションを巻き起こし、第2作の「なしくずしの死」36はさらに露悪的な題材で悪評を高めた。第二次世界大戦…

ベケット、小説の絶対零度

小説に絶対零度というものがあるなら、サミュエル・ベケット(1906-1989,1969年ノーベル文学賞受賞)をおいて他にないだろう。アイルランド出身でフランス移住者であり、ジョイスの愛弟子であると共にプルースト研究家で、作風はカフカの衣鉢を継ぐ。戯曲の代…

通院日記・9月21日(土)晴れ

今日は眼科で月一回の検査を受けてきた。大体いつも毎月20日前後に通院して老眼の進行はないか視力と眼圧の両方を検査し、半年に一度は視野検査があり、場合に応じて瞳孔の撮影検査もある。 今日は疲れ目で、眼がしょぼしょぼして視力検査で裸眼・補正ともあ…

通院日記・9月20日(金)晴れ

(金)と書いたら最後に精神科入院した時の相部屋で、どうしようもないじいさんがいたのを思い出した。一日中他人の陰口か昔の自慢話を独語している。本業はタクシー運転手のかたわら山口組でシマを任されていたのが自慢だが、生活保護を受けるために離婚して…

通院日記・9月19日(木)晴れ

ぼくは生活保護受給者で毎月の支給日は五日だから、ちょうど折り返し点に入ったことになる。備蓄食料品は来月の支給日分まで買い込んであるから、あとは生鮮食料品分しか財布に残っていない。貯金はあるがこれは純粋に娘たちへの学資保険なので崩せない。 今…

通院日記・9月17日(火)晴れ

今日のメンタル診察はしくじった。簡単に「落ちついていて、心身ともに調子は良好です」で済ませておけばよかった。だがぼくは入獄・裁判の話を持ち出してしまった。 「たとえば実家に立ち寄った際に、警察署からあらかじめ言われた通りに父と継母がぼくを密…

2007年9月13日(釈放)

入獄体験のある人はそう多くはないだろうし、誰もが一律の経験をするわけではない。ぼくも自分の場合はこうだった、としか言えない。たとえば拘置所では、皆がやたらに食事が速かった。噛まずに呑み込んでいるんじゃないか、というくらい速い。この手の話な…

2007年9月6日/13日(裁判)

今回もリコメント型式で始めたい。ぼくが獄中でなにを考えたか、裁判がぼくにとってどんな意味を持ったかを思い出してみたいと思う。 * 法治国家では捏造や冤罪は珍しいことではありませんし、ぼくを知る人で、ぼくが告訴されたような行為を行ったと信じる人…

2007年9月14日(釈放翌日)

まず昨日の記事に寄せられた疑問への回答から。その疑問とは、ノルマやモデルケースというのが納得できない、というものだった。正確には「納得できかねます」という表現だったが、~かねます(かねません)というのは90年代から女性の間で謙譲表現として誤用…

2007年9月13日(独房まで)

2007年9月13日、ぼくは6日の公判に継ぐ二度目の公判で懲役3か月・執行猶予4年の判決を受けて横浜拘置所から釈放された(以前「懲役2年」と誤記したかもしれない。実際は3か月だ)。5月23日~9月13日まで114日間もぶちこんでおいて、いまさら懲役3か月・執行猶…

60年代のアメリカ小説(2)

文学全集類で二十世紀アメリカ小説の古典とされているのは、ドライサー「アメリカの悲劇」25、フィッツジェラルド「偉大なギャッツビー」25、ドス・パソス「北緯42度線」(「U.S.A」第一部)30、スタインベック「怒りの葡萄」39-そしてヘミングウェイは「われ…

60年代のアメリカ小説(1)

筆者が高校時代に読書ガイドとして熟読したのは、高橋正雄「二十世紀アメリカ小説」全四巻(1973~1979・冨山房)と、トニー・タナー「言語の都市」(原著1971/翻訳1980・白水社)、レイモンド・M・オールダマン「荒地の彼方」(原著1972/翻訳1981・評論社)の六…

通院日記・9月10日(火)曇り

今日の通院は歯科で、義歯の型取りを受けてきた。ぼくの行きつけの歯科はガキの頃から(妻や娘たちの付き添いも含めて)腕前も対応も最高で、一人暮らしで郷里に戻り医療は最良の環境に恵まれている-大学生時代から暮した登戸~向ヶ丘遊園(多摩区宿河原)が懐…

二十世紀の十大小説(4)サンプル編

* 長い間、私は早く寝床に就き、時には蝋燭を消すとすぐに寝入り、眠るんだなと考える隙すらなかったが、三十分ほどで眠らなければと思いながら目が覚め、まだ手にしているつもりの本を置いて明かりを消そうとするのは、眠りながらもそれまで読んでいた本の…

通院日記・9月9日(月)曇り

昨夜の記事二本は三時間で書いた。晩は久しぶりに、ジャック・ドワイヨンの映画をDVDで見直した。大体この人の映画はうじうじした登場人物がうじうじしたまま終る、というぼく好みの作風で、処女長編の「頭の中に指」や、監督自ら主演の(制作費不足だったら…

60年代のアメリカ小説(序)

筆者が高校生の頃に熟読したアメリカ小説の参考書が六冊ある。そのうちの四冊は、高橋正雄の「二十世紀アメリカ小説」全四巻(1973~1979・冨山房)で、これに取り上げられている小説で翻訳があるものは国会図書館から取り寄せまでして全て読んだ(町の図書館に…

クワガタムシの観察

今日、インスタント・コーヒーの空き瓶を挟んで風通しを良くした玄関の土間にまだ小さなクワガタムシが入り込んでいるのを見つけた。小指の第二関節にも満たない全長で、CDのケースほどの厚みもない。あまりに平べったいので、最初はゴキブリかと思ったくら…

療養日記・9月6日(金)曇り

滅多にないことだが、たまにはぼくだってスウィーツの写真くらい載せたっていいだろう。このプリンとアイスクリームは、いつの間にかローソンでポイントが貯まっていたので景品にもらってきたものだ。甘いものを食べるのは今年はヴァレンタイン・デイにいた…

通院日記・9月5日(木)雨のち曇り

今日は悪天候の中を裕に合計二時間は歩いた。平均的な歩行速度は一時間あたり四キロと言うが、天候が悪かったので距離はもっと短いだろう。 ぼくなど遠出の歩行すらメンタル刺激になると言われているので気をつけなければならないが、今日はまだ台風の気配が…

コメントとリコメント

[「劇場版・魔法少女まどか☆マギカ」をめぐって] ぼくも「魔法少女リリカルなのは」程度に面白ければいいや、と思って観たのであまりにとんでもない内容でのけぞりました。最後まで観ると、結局ほむらが主人公なんですよね。世界がリセットされて、たっくん…

通院日記・9月2日(月)曇り

曇りだが湿度が高くて蒸し暑かった。今日は話すほどのことはないなあ、と思いながら待合室でこの記事のタイトルだけ書いたところで診察室の扉が開き、主治医に呼ばれる。メンタル・クリニックに通い始めてしばらくは、主治医と一対一なのがなんとなく落ちつ…

おいしいナポリタンの作り方

かなり前にも紹介したが、伊丹十三に「カンツォーネを聴きながらスパゲッティを食べよう」というレコードがある。昭和43年の発売で、伊丹十三が女性アナウンサー相手にたれるウンチクと、大野雄二がイタリア人女性歌手を起用したラウンジ調カンツォーネが交…

二十世紀の十大小説(3)

まず、篠田一士「二十世紀の十大小説」をおさらいしよう。 プルースト「失われた時を求めて」仏1913-27 ボルヘス「伝奇集」アルゼンチン1941,44 カフカ「城」チェコ1924,26 茅盾「子夜」中1933 ドス・パソス「U.S.A.」1938(30,32,36) フォークナー「アブサロ…

通院日記・8月29日(木)大安快晴

接写モードはどうも手ぶれしていけない。これはなにかというと、ご覧の通り懐中時計で、クリップつきのストラップで胸ポケットやズボンのポケットに留められるようになっている。 これは今日通院した歯科助手の女の子がエプロンの胸元にぶら下げていたものだ…