人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#練習用

里霧への手紙(別れた妻の回想)

精神障害者で生活保護受給者である事情を理解して救済に尽力してくれる親切なスタッフ。福祉機関、そして医療チーム。拘置所をひとりで出てきてから一つ一つ見つけてきたんだ。ほとんど絶望にさらされながら、調べて、たらい回しにされて、それでもたどり着…

ドン・ファン対カサノヴァ

国語や英語の授業で女性教師は必ずぼくを指命してきた。ぼくは穏やかで感情のこもった声で朗読した。クラス中の女の子がため息をついた。はっきりと「すてき…」と言う子もいた。 ぼくが黒板に書くと、同じような反響にあった。「きれいな字!優しい…」 制服の…

2007年5月23日

2007年5月23日、ぼくは逮捕された。その朝旅館を出たぼくは離婚したばかりの妻子の住むマンションに早めに着いてしまい、コンビニの弁当をエントランスで食べた。集合ポストの表札はもう妻の旧姓になっていた。ぼくはまだ引っ越し先が決って居なかった。別居…

日曜日

(佐伯です。ぼくが愛読した詩人は萩原朔太郎、西脇順三郎、ボードレール、ジュール・ラフォルグだった。きみにプレゼントした本はみんなきみの夫に捨てられてしまった。 ぼくは元々詩を書いていた。きみのために25年ぶりに書いてみたくなった。作風はジュー…

不機嫌な森(2)

きみはぼくを夫に選ばないだろう。ぼくもきみは勘弁だ。なのにこんなに求めあう関係になってしまった。たぶん今夜もぼくはきみを存分に犯して、きみとの架空の対話の中できみの願望を聞き出し、きみをもっと感じさせてあげる。 恋人通しならこんな妄想も許さ…

不機嫌な森(1)

優しい里霧さん、 タイトルがちょっと不穏でごめんね(不穏を変換しようとしたらフォンデュが出た。チーズフォンデュは妻にも娘たちにもお気に入り料理だった。ラザニアも…二人とも離乳食からぼくが食べさせてきたんだ)。 ちなみに下北沢に美味しいチーズフォ…

ヤツメウナギのお嬢様

…アリバイの片棒担いでくれる里霧の友人、もちろん会ったことはないがこのお膳立てには既視観があった。そうだ、ヤツメウナギのお嬢様だ!里霧の友人で、町田屈指の名門だという。なるほど町田ともなると人獣(魚だが)に区別はないらしい。合点のいく話だ。 …

里霧へのメール・デート篇

火曜日の朝、きみはモーニング・コールをくれた。前日にぼくはモーニング・コールのリクエストと都合のいい日で昼食だけのデートを誘っていた。 だが、きみ…里霧はもっと大胆にぼくを求めていた。 明日の晩は友人との食事があるから、それをアリバイに昼間デ…

旧友への手紙

前略、ぼくは1ヵ月前の恋人との別れ以来鬱のどん底にいます。「まあ躁よりはいいから」と主治医に言われましたが(確かにそうですが)鬱からロコモーティブ・シンドロームに陥り危篤寸前の緊急入院も一昨年経験しています。毎週1回訪問看護で精神保健福祉のか…

ミモザの俳句(里霧へのメール)

里霧さんの句もいいね。でもちょっと背景を知らないと難解だね。去年の春は私も彼も入院中だった。今年の春は庭のミモザが見れたが彼には会えない。「昨春」と「ミモザ」の季語の重複も痛し痒しだ。 「昨春は見じミモザ見て彼想う」 中七の「見じ」「ミモザ…

里霧へのメール(退院報告2)

ヤバい会話をしてしまった、と気付いたのは病院を出た後だった。彼女と話していてもずっと考えていたのは里霧さんのことだった。ヤキトリ屋でヤキトリ食べて、飲んで、ぼくの部屋で一緒に眠る。飲むのは二人でビール一本でいい。愛している女の子とならそれ…

里霧へのメール(退院報告1)

まず謝りたい。ぼくが重い躁状態で里霧さんに送ったメールはひどいものだった。あんなメールを送られても我慢しながら理解してくれたあなたは…と思うと、胸がつらくなる。 無事9日退院、帰り道に携帯電話新規開通手続きしました。ご心配、ご迷惑おかけしま…

俳句・6

(恋人里霧と偽妹ハイジ) ・町田市を軍事独裁国家と思いけり ・カーテンを真っ先に引くあなた ・「不倫より同人雑誌を作ろうよ」 ・俳句とは寸止めの詩型なりしかな ・「お兄さまこのまま里霧さんと寸止めでいいの?」 ・髪の毛を枕に残して出て行った ・里霧…

俳句・5

[バフチリアの民] ・高貴かなバフチリアの民よ ・その名のみバクテリアに似るは口惜し ・わが秀でし友たちも皆バフチリア ・執着に限りなしとは途切れたし ・相思相愛ならばひたすら逃げるのみ ・ヘルダーリーン今こそあなたの荒廃を [娘たち~女たち] ・「…

俳句・4

[バフチリアの民] ・高貴かなバフチリアの民よ ・その名のみバクテリアに似るは口惜し ・わが秀でし友たちも皆バフチリア ・執着に限りなしとは途切れたし ・相思相愛ならばひたすら逃げるのみ ・ヘルダーリーン今こそあなたの荒廃を [娘たち~女たち] ・「…

俳句・3

[数次の入退院、恋愛] ・わが狂気まだ廃人に至らずか ・廃人に次々宅急便のみ届く ・われ遂にイェティ館に住まいたり ・わが女サニールームに見つけたり ・わが女四月馬鹿より馬鹿なりき ・How Does It Feel?遂にわれこそ転石か ・北国の少女をついに逃しけ…

俳句・2

[凍死体連作] ・寝返りも打てずひたすら硬直す ・窓開けて寝れば凍死に至るかな ・生きながらわれ凍死体となりにけり ・凍死体それでもガスがまだ出るか ・凍死体ならばハエすら止まらずに ・凍えれば寝返り打てる凍死体 ・退屈のあまり寝返る凍死体 ・無理…

俳句・1

[離婚・入獄] ・咳しても所詮われひとりにはなれず ・検閲を怖れ何もかもは書けず ・中庭を歩くラスコリニコフたち ・ドア開閉壁に直立待つのみか ・三畳間・布団は斜めにしか敷けず ・鳥籠の中で日光浴が運動か(凶悪犯たちと) ・一時間ごとに足音小窓で覗く…

「眠れる森」第3章(続き)

画数を調べると「茜」の一字では不足なことが判った。あと何画、と索引を引きき「音」の一字を見つけた。茜音、と書いて「あかね」と読ませる。ちょうど妻の昼食時間になった。妻のご両親は午後から見舞いに来る。ぼくは明日の午後には帰る。 「ぼくの実家は…

「眠れる森」第3章

長女は話術が巧みだった。その日の出来事を重要事項順に並べ、ひとつひとつの話題について要約、概要、解説、総括することが自然にできた。妻は床に就くと数分で熟睡する女性だったので長女との寝物語はぼくの役目だった。今日はどんなことがあったの?それ…

小説「眠れる森」第2章

留置場の40日間、さらに拘置所の40日間、裁判から釈放までの事情はありふれたものだった。結婚生活の末期にはぼくは精神疾患に陥っていた。 別居中に妻からの民事訴訟で離婚が決定し、その時点でDV指定により刑事裁判に棚上げされる準備ができていた、と知っ…

「眠れる森」第1章(続)

次女は姉とパパの親愛感にも嫉妬を抱いていたが、ママの観察通り一にお姉ちゃん、二にママ、三にパパだったので姉とはとても仲のよい姉妹だった。性格は対照的だったがそれがかえって良かったのだろう。娘たちが通う保育園ではふたりっ子が多く、親睦会では…

長篇小説「眠れる森」第1章

次女はあまり自分から感情を表す子供ではなかったが率直な性格で、表情や仕草から自然に心の動きが読み取れ、無口だが言葉に嘘はなかった。たまに自分から話してくる時には前後に脈絡なく、思いつくままに話題が変わるので、 「そうか。それでどうなったの?…