人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

日本文学

那珂太郎詩集『音楽』昭和40年(1965年)より

那珂太郎詩集『音楽』 昭和40年(1965年)7月・思潮社刊 飯島耕一詩集『他人の空』以降ご紹介している戦後詩の第二世代以降の詩人は主に詩誌「ユリイカ」に拠った詩人で、他にも安東次男、大岡信、川崎洋らがおり、吉岡実、岩田宏らも「ユリイカ」に拠った詩人…

入沢康夫詩集『倖せそれとも不倖せ』昭和30年(1955年)より

入沢康夫詩集『倖せそれとも不倖せ』 昭和30年(1955年)6月・書肆ユリイカ刊 日本の敗戦後の現代詩は昭和20年代までは戦前・戦中に自己形成した世代がデビューした時期であり、純粋な戦後世代の登場は昭和30年(1955年)以降になります。その第一人者が谷川俊太…

清岡卓行「石膏」(詩集『氷った焔』昭和34年=1959年より)

清岡卓行詩集『氷った焔』 昭和34年(1959年)2月・書肆ユリイカ刊 今回ご紹介するのは戦後の恋愛詩のなかで最高の一篇と賞される作品です。戦後俳句の森澄雄の代表句、除夜の妻白鳥のごと湯浴びせり (句集『雪礫』昭和24年=1949年) のように奥さんを詠ったも…

飯島耕一詩集『他人の空』昭和28年(1953年)刊より

飯島耕一詩集『他人の空』 昭和28年(1953年)12月15日・書肆ユリイカ刊 鮎川信夫に代表される詩誌「荒地」の詩人たちを戦後詩の第1世代とすれば、戦後詩の第2世代というべき作風を見事に結晶させたのは飯島耕一(1930-2013)の第1詩集『他人の空』で、早熟だっ…

西脇順三郎連作長編詩「体裁のいい風景」(大正15年=1926年作)

西脇順三郎(明治17年=1894年生~昭和57年=1982年没) 西脇順三郎(明治17年=1894年生~昭和57年=1982年没)が初めて日本語詩に着手したのは應義塾大学英文学科教授に就任した大正15年(1926年)4月以降のことで、大正15年7月の「三田文学」に4篇同時掲載され…

西脇順三郎「馥郁タル火夫」(昭和2年=1927年作)

西脇順三郎(明治27年=1894年生~昭和57年=1982年没) 「馥郁タル火夫」 西脇順三郎 ダビデの職分と彼の宝石とはアドーニスと莢豆との間を通り無限の消滅に急ぐ。故に一般に東方より来りし博士達に椅りかゝりて如何に滑らかなる没食子が戯れるかを見よ! 集合…

西脇順三郎「薔薇物語」(詩集『Ambarvalia』昭和8年=1933年より)

西脇順三郎第1詩集『Ambarvalia』(椎の木社・昭和8年=1933年9月) 「薔薇物語」 西脇順三郎ヂオンと別れたのは十年前の昼であつた 十月僕は大学に行くことになつて ヂオンは地獄へ行つた 霧のかゝつてゐる倫敦の中を二人が走つた ブリテン博物館の屋根へのぼ…

西脇順三郎「風のバラ」(大正15年=1926年作)

西脇順三郎(明治27年=1894年生~昭和57年=1982年没) 「風のバラ」 西脇順三郎帽子を浅くかむって 拉典人類の道路を歩く 樹木の葉の下と樹木の葉の上を混沌として気が小さくなつてしまふ瞳孔の中に 激烈に繁殖するフユウシアの花を見よ あの巴里の青年は 縞の…

西脇順三郎「林檎と蛇」(大正15年=1926年作)

西脇順三郎(明治27年=1894年生~昭和57年=1982年没) 「林檎と蛇」 西脇順三郎わが魂の毛皮はクスグツたいマントを着た おれの影は路傍に痰を注ぐ 延命菊の中にあるおれの影は実に貧弱である汽車の中で一人の商売人は 柔かにねむるまで自分の家(ウチ)にゐるや…

西脇順三郎「内面的に深き日記」(大正15年=1926年作)

西脇順三郎(明治27年=1894年生~昭和57年=1982年没) 「内面的に深き日記」 西脇順三郎一つの新鮮な自転車がある 一個の伊皿子人(イサラゴジン)が石けんの仲買人になつた 柔軟なさうして動脈のある斑點のあるさうして これを広告するがためにカネをたゝく チ…

西脇順三郎「世界開闢説」(大正15年=1926年作)

西脇順三郎(明治27年=1894年生~昭和57年=1982年没) 「世界開闢説」 西脇順三郎科学教室の背後に 一個のタリポットの樹が音響を発することなく成長してゐる 白墨及び玉葱黍の髪が振動する 夜中の様に もろ\/の泉が沸騰してゐる 人は皆我が魂もあんなでない…

八木重吉「明日」(大正14年=1925年作)ほか

(大正10年、東京高等師範学校卒業頃の八木重吉、満23歳) (手稿小詩集「ことば(大正14年6月7日)」より「あかんぼもよびな」直筆稿) 「明日」 八木重吉まづ明日も目を醒まそう 誰れがさきにめをさましても ほかの者を皆起すのだ 眼がハッキリとさめて気持ちも…

三富朽葉「水のほとりに」「メランコリア」(明治42年~43年=1909年~1910年作)

三富朽葉(明治22年=1889年8月14日生~大正6年作=1917年8月2日没) 『三富朽葉詩集』第一書房・大正15年(1926年)10月15日刊 「水のほとりに」 三富朽葉水の辺(ほと)りに零れる 響ない真昼の樹魂(こだま)。物のおもひの降り注ぐ はてしなさ。充ちて消えゆく …

伊東静雄「水中花」(『詩集夏花』昭和15年=1940年より)

(伊東静雄明治39年=1906年生~昭和28年=1953年没>) 「水中花」 伊東静雄水中花(すゐちゆうくわ)と言つて夏の夜店に子供達のために売る品がある。木のうすい/\削片を細く圧搾してつくつたものだ。そのまゝでは何の変哲もないのだが、一度水中に投ずればそれ…

立原道造詩集『萱草(わすれぐさ)に寄す』(昭和12年=1937年刊)再考・後編

立原道造(1914-1939)23歳頃(昭和13年=1938年)、数寄屋橋ミュンヘンにて。 第1詩集『萱草(わすれぐさ)に寄す』に見られる立原道造(大正3年=1914年7月30日生~昭和14年=1939年3月29日没)の詩の特色については、前回までで検討してみました。最後に、この詩集の…

立原道造詩集『萱草(わすれぐさ)に寄す』(昭和12年=1937年刊)再考・中編

立原道造(1914-1939)23歳頃(昭和13年=1938年)、数寄屋橋ミュンヘンにて。 はじめてのものに ささやかな地異は そのかたみに 灰を降らした この村に ひとしきり 灰はかなしい追憶のやうに 音立てて 樹木の梢に 家々の屋根に 降りしきつた その夜 月は明かつた…

立原道造詩集『萱草(わすれぐさ)に寄す』(昭和12年=1937年刊)再考・前編

立原道造(1914-1939)23歳頃(昭和13年=1938年)、数寄屋橋ミュンヘンにて。 以前に立原道造(大正3年=1914年7月30日生~昭和14年=1939年3月29日没)の第1詩集『萱草(わすれぐさ)に寄す』(昭和12年=1937年5月私家版)は全編を一度にご紹介しました。この詩集はソ…

小野十三郎「城」「小事件」「赤外線風景」(『詩集大阪』昭和14年=1939年より)

[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 『小野十三郎著作集』全三巻 平成2年(1990年)9月・12月・平成3年2月・筑摩書房刊、第一巻所収 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「城…

小野十三郎「一日」「雨季」「動物園」(『詩集大阪』昭和14年=1939年より)

『小野十三郎著作集』全三巻 平成2年(1990年)9月・12月・平成3年2月・筑摩書房刊、第一巻所収 [ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「一…

小野十三郎「古い春」「貨物列車」「雀」(『詩集大阪』昭和14年=1939年より)

[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「古い春」 小野十三郎柳が芽をふき 菜種の花が咲き 鶏がゴミ溜を漁つてゐる。 高架線の向ふに淡霞…

小野十三郎「北陸海岸」「焚火」「戸籍」(『詩集大阪』昭和14年=1939年より)

[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「北陸海岸」 小野十三郎鳥屋町 三本松 住友製鋼や 汽車製造所裏の だだつぴろい埋立地を 砂塵をあ…

小野十三郎「白い炎」「晩春賦」「住吉川」(『詩集大阪』昭和14年=1939年より)

[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「白い炎」 小野十三郎風は強く 泥濘(どぶ)川に薄氷(はくへう)浮き 十三年春の天球は 火を噴いて …

小野十三郎「冬の夜の詩」「初夏の安治川」(『詩集大阪』昭和14年=1939年より)

小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 [ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 「冬の夜の詩」 小野十三郎 自分のことは忘れよ、 各自の生活を励め……魯迅夜更けて 公園を通り抜け…

小野十三郎「早春」「葦の地方」「明日」(『詩集大阪』昭和14年=1939年より)

[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半。] 小野十三郎第4詩集『詩集大阪』 昭和14年(1939年)4月16日発行 定価1円 四六判 87頁 角背フランス装 装幀・菊岡久利 「早春」 小野十三郎ひどい風だな。呼吸がつまりさうだ。 あんなに凍つてるよ。鳥なんか一羽もゐない…

小野十三郎「いたるところの決別」「家系」 (詩集『古き世界の上に』昭和9年=1934年より)

[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 第3詩集『古き世界の上に』 昭和9年(1934年)4月15日・解放文化聨盟出版部(植村諦聞)刊 「いたるところの決別」 小野十三郎 俺は友が友をそむき去る日を見た 相手の腕は折れ額に血潮のにじみ出るのを見た 俺は又一枚…

小野十三郎「軍用道路」「天王寺公園」(詩集『古き世界の上に』昭和9年=1934年より)

[ 小野十三郎(1903-1996)、40代前半頃。] 第3詩集『古き世界の上に』 昭和9年(1934年)4月15日・解放文化聨盟出版部(植村諦聞)刊 「軍用道路」 小野十三郎暗い郊外の野をつらぬいて かなたの山麓へ また、一直線に路がついた 月のある晩だし、このあたりは少…

小野十三郎「嵐の歌」「炎の歌」(詩集『半分開いた窓』大正15年=1926年より)

第1詩集『半分開いた窓』(私家版) 大正15年(1926年)11月3日・太平洋詩人協会刊 [ 小野十三郎(1903-1996)、大正15年=1926年、第1詩集『半分開いた窓』刊行の頃、23歳。] 「嵐の歌」 小野十三郎銛をうたれた鯨のやうに 真黒な雲が空を荒れ狂ふ グリリと出歯包…

小野十三郎「ロマンチシズムに」ほか(詩集『半分開いた窓』大正15年=1926年より)

[ 小野十三郎(1903-1996)、大正15年=1926年、第1詩集『半分開いた窓』刊行の頃、23歳。] 第1詩集『半分開いた窓』(私家版) 大正15年(1926年)11月3日・太平洋詩人協会刊 「ロマンチシズムに」 小野十三郎僕は頭脳の中で 非常に無性格な一つの風景を想起する …

小野十三郎「野鴨」「断崖」(詩集『半分開いた窓』大正15年=1926年より)

[ 小野十三郎(1903-1996)、大正15年=1926年、第1詩集『半分開いた窓』刊行の頃、23歳。] 第1詩集『半分開いた窓』(私家版) 大正15年(1926年)11月3日・太平洋詩人協会刊 「野鴨」 小野十三郎僕はあの蘆間から 水上の野鴨を覗ふ眼が好きだ きやつの眼が大好き…

大手拓次「手を嗅ぐ少年」「足指礼讃」大正9年(1920年)作

(大手拓次明治20年=1887年生~昭和9年=1934年没>) (大手拓次の自筆原稿とイラスト) 「手を嗅ぐ少年」 大手拓次わたしはちひさい時に よく自分の手のにほひをかいだ。 くんくんとまるで犬の子のやうに自分の手をかいだ。 まいにちまいにちちかはつたにほひ…