人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(23)フランツ・カフカ小品集

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これはカフカの少年的女性嫌悪が露にテーマとなった二篇。少年にとって女性の化粧や衣裳ほど馬鹿らしく見えることはないからだ。そのまま大人になると化粧っ気のない、質素ないでたちの女性以外はビッチと見なすようになり、そういう女性の見本は自分の母親だからいわゆるマザコンと混同されやすいが、根本は女性嫌悪だからそういう男の恋愛は紛糾する。
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『衣裳』

よく私は沢山の折り目や襞やびらびらのついた衣裳が、美しい身体に美しくまとわりついているのを見受けるが、そういう時私は考える。これはいつまでもこのままではいないだろう。皺がよってもう真っ直ぐにのしをすることもできず、埃がついてもその装飾の中に厚くたまって、もう払うこともできなくなるだろう、と。そして毎日同じ高価な衣裳を朝つけて宵に脱ぐほど悲しい馬鹿げたことがあるだろうか。
だが私は見かけるのだ、美しくもあり、魅惑的な筋肉や可愛い関節を持ち、引き締まった皮膚とふさふさした柔かな髪の毛を持った少女が、にもかかわらず毎日性懲りもなくこの同じ天然の衣裳をつけて現れるのを。そしていつも同じ顔を同じ掌にのせて手鏡に姿を映してみるのを。
ただ時として彼女らが夜遅く賑やかな集まりから戻る時、鏡の中にはその衣裳がくたびれ、膨れ上がり、埃まみれで、人の目にさらされて使い物にならないものに映っているのに気づくだろう。
(小品集「観察」1916)
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『拒絶』

もし私が美しい少女に出会って、「ぼくと一緒に来ないかい?」と頼むのに彼女が黙って通りすぎるなら、彼女は内心こう言っているのだ。
「あなたは名前の知れわたった公爵でもないし、たくましい肉体を誇るアメリカ人でもなく、秘宝を探す大航海をしたこともないわね。なのに美しい少女の私がどうしてあなたと一緒に行かなきゃならないの?」
「でも君は忘れているよ。君は立派な車に乗ってもいないし、君の背後から半円を描いて従うお伴もいないね。君のバストはコルセットで行儀よく締めてあるが、君の腿や腰はその償いにあまりある。君は去年の秋に男たちを喜ばせた、ブリーツの多い服を着て、しかも-そんな生命の危険を身にまといながらも-君は無邪気に笑うのだ」
「そうね。私たちおたがいの言い分は間違ってはいないわね。でももうそのくらいにして、別々にお家へ帰りましょう」
(同)