人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(27b)チェット・ベイカー(tp)

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唐代の詩人・李白は酒と詩を愛し、池に映る月を捕ろうとして溺死したという。安宿の窓枠に座っていて転落死したチェットは李白に重なる。しかも2階だ。
前回でチェットの楽歴はデビューから事故死まで粗述したのに続編もやるか、「巨人25」でも1回でまとめた人は多いぞ、とは思うが、趣味だ。筆者はこれを趣味で書いているのだ。
チェットは宵越しの金は持たない性格だったから、ブランクも多いがアルバムも多い。せっせとレコーディングし、せっせとクラブ出演で稼いだ。客足が遠のくとまた別の都市、別の国。そんな生活を10年あまり続けたから、帰国してもまたすぐ渡欧してしまう。「さすらいのトランペッター」というとあまりに通俗的なイメージだが、そんな生活をしていたジャズマンが当時はゴロゴロいた。そのイメージを作ったのがチャーリー・パーカーであり、パーカーの愛弟子チェットだった。

チェットは生涯に200枚のアルバムを残したが、1979年はとりわけ多産な年で11枚に及び、その内5枚は傑作になった。
最初の傑作は1月ドイツ録音のウォルフガング・ラッカーシュミット(ヴィブラフォン)とのデュオ「バラーズ・フォー・トゥ」(画像1)で、ジャケットはひどいが名盤なのだ。全7曲中オリジナル4曲、スタンダード2曲、そしてケニー・ドーハムの名曲『ブルー・ボッサ』を和声もメロディも原型をとどめないほど解体・再構成している。ペットとヴァイブのデュオ・アルバムなんて企画は今後もあるまい。ラッカーシュミットとは普通のバンド編制で11月にもう1枚共演するが、平凡な出来。
それから4枚跨ぎ10月2日にドーハム同様パーカー・クインテット出身のデューク・ジョーダン(ピアノ)とワン・ホーン・カルテットの「ノー・プロブレム」(画像2)で初共演。これはジョーダンのオリジナル曲集だがジョーダン1960年のアルバム「フライト・トゥ・ジョーダン」のリメイクで、版権上曲名は全部変えてある。だから「ノー・プロブレム」(笑)。チェットとジョーダンの枯れ枯れの演奏がすごい。ここまで枯れたアルバムはそうない。

あと3枚の傑作はデンマークで10月4日の一晩でライヴ録音された「デイブレイク」(画像3)、「ジス・イズ・オルウェイズ」「いつか王子様が」で、ギター、ベースとのトリオ。50歳にして絶好調のチェットを聴くなら、まずこれか。