人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#24.承前『イエスタデイズ』

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『イエスタデイズ』はAABA型式32小節の小唄で、アベさんが「これだけなんですか!?」というのももっともだが、いわゆるスタンダード・ジャズの大半は24小節か32小節でできている。そのたった一枚の紙切れに納まる程度の五線譜からジャズマンは5分~10分、20分という即興演奏をやってのけるわけだ。

ジャズ・ヴォーカルよりも器楽ジャズのほうが、モダン・ジャズではダイナミックな発展を見せたのも、器楽のほうがより発展の余地があったからで、ヴォーカル中心の音楽は結局、歌に戻ってきてしまう。もちろん歌の魅力は唯一無二だからそれで全然構わないが、クラシック音楽があれほどの発展をとげたのは器楽音楽としてさまざまな実験が重ねられたからだった。近年の現代音楽のロマン派回帰については賛否両論あるが(現代音楽と呼べるかを含めて)、ロマン派はどの国でも不穏な時代に興隆したという歴史もある。

モダン・ジャズの背景も第二次世界大戦朝鮮戦争があり、さらに自由民権運動の時代があって、それを忌避するかコミットメントするかの違いはあれ共通の危機があればこそ発展を急いだ。アフリカン・アメリカンにとっての自由民権運動マーティン・ルーサー・キング牧師の殉教によって帰結を見た(それに先立ち暗殺されたマルコムXとキング師はコインの裏表の関係にあった)。

キング師については、ぼくの教父である牧師がアメリカ留学時に晩年の師に師事経験があり、葬列のパレード車で師を送っている。'I have a dream.'といえば、キング師のスローガンであり、'At last I am free.'ならシックの名曲(ロバート・ワイアットのカヴァーも素晴らしい)だが、キング師の墓碑銘に刻まれた言葉だ。キング師が殺害されたのは68年4月、前年7月にはジョン・コルトレーンも急逝している。

コルトレーンとキング師の死で黒人ジャズは精神的指導者を喪った、といえる。黒人音楽の主導権は再びR&Bに戻った。白人ロックの急激な伸展はヴェトナム戦争へのアメリカの介入抜きには考えられないが、その頃ジャズはもっとも力を落としており、45年を経た現在でも再起していないかもしれない。

キング師の生涯と宣教、そして殉教とその喪失感についてはぼくは幼い頃から教えられており、ジャズに絡めてつい語りたくなった。次回は曲に戻る。