人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

#27.承前『イエスタデイズ』

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世の中の音楽はベースとドラムス抜きのものはほとんどない。ソロ・ピアノなども打鍵楽器だからベースとドラムスの役割をひとりで演っているようなもので、ライヴを経験すれば(演奏する側でも、聴く側でも)ベースとドラムスの存在感の大きさは嫌でもわかる。推進力も空間も、またベースは調性(トーナリティ)までも、すべての土台になっているのがベースとドラムスだと言える。

だがベースとドラムスは併せてひとつでもあり、いわゆる「打ち込み」でどちらかを補強せずにベース、またはドラムスだけとのデュオが行われるのはジャズの分野くらいだろう。それも一曲の中で部分的に挟まれるならともかく、一曲の全編、さらにはアルバムの全編がベースまたはドラムスとのデュエットで奏でられる例は稀にしかない。
(シーラ・ジョーダンという、ベースだけをバックに歌うのをライフワークとするジャズ・ヴォーカリストもいるが、そんなとんでもない人は他にいない)。

ところで、リー・コニッツ=アルトサックスとチャーリー・ヘイデン=ベースの初のデュエット・アルバム「スウィート・アンド・ラヴリー」97(画像2)だが、これは実は日本のレコード会社からの企画で日本盤しか存在しない。海外のマニアにとっては入手困難盤だろう。日本盤も初回プレスしかされなかったようで、聴いたことがある人も少ないと思われる。内容は全曲有名スタンダードで、『イエスタデイズ』も演奏している。

知る人ぞ知るとおりコニッツは演奏の出来・不出来が激しく、20代前半をピークに中半、後半とジリ貧に演奏の艶が衰えて30代はまったく録音がなく、40代になり復帰してからは意欲的な失敗作をコンスタントに発表してきた。だが、この70歳のアルバムはいい。10歳年下のヘイデンとのデュオは、当然ヘイデンの古巣であるオーネット・コールマン=アルトサックスを意識しただろう。

コニッツは、チャーリー・パーカー=アルトサックスの黒人ビ・バップへのアンチテーゼとしてレニー・トリスターノ=ピアノの薫陶の下に白人クール・ジャズのサックス奏法の先駆者となった偉大な人。だが日本企画に便乗し、新人ピアニストのブラッド・メルドーを加えたヘイデンとのトリオで同時録音アルバム「アローン・トゥゲザー」(画像3)がブルーノート社から出たのには苦笑した。ジャパン・マネーで一日二枚か(笑)。