人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

続アガサ・クリスティー・ベスト10

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前回書いた通り、アガサ・クリスティー推理小説作品は長編66冊、短編集20冊という膨大な数にのぼる。しかも凡作や駄作はない。名探偵ものではないノン・シリーズ作品には際どい失敗作もあるが(普通小説に近い心理サスペンスでは、本格推理小説では適切で効果的な登場人物の性格描写が過剰になる傾向がある)それでもクリスティー作品には読む価値がある。

現代推理小説の開祖はヴァン・ダインにあると見るべきだが(クリスティーのデビューはそれより先だが)本職は美術史家のヴァン・ダインはシビアに「一人の推理小説作家が書ける作品は6冊が限度」と発言していた(読むに値する、独自性のある作品の意味で)。クラシック音楽でいえば長編小説は交響曲に近い。主流文学の小説家や詩人も生涯の著作は10冊程度が普通なので、クリスティーのような存在はエンタテインメントのジャンルだからこそあり得たといえる。

前回紹介したクリスティー自選ベスト10、江戸川乱歩選ベスト8、ファンクラブ選ベスト10を集計すると、

そして誰もいなくなった(1939N)
アクロイド殺し(1926P)
・予告殺人(1950M)
・ゼロ時間へ(1944N)
(以上全票)

オリエント急行の殺人(1934P)
・火曜クラブ(1932M)
(以上自選・ファン選)

・終りなき夜に生れつく(1967N)
・ねじれた家(1949N)
・無実はさいなむ(1958N)
・動く指(1943M)
(以上自選単票)

・白昼の悪魔(1941P)
・三幕の殺人(1935P)
・愛国殺人(1940P)
・シタフォードの秘密(1931N)
(以上乱歩選単票)

ABC殺人事件(1935P)
・ナイルに死す(1937P)
・葬儀を終えて(1953P)
・スタイルズ荘の怪事件(1920P)
(以上ファンクラブ選単票)

以上18作がベスト10リスト3種(乱歩はベスト8だが)に上がっている。発表年に添えたPはエルキュール・ボアロ、Mはミス・マープルで、Nはノン・シリーズを表す。
筆者なら乱歩のベスト8から「シタフォード~」は外し、処女作「スタイルズ荘の怪事件」に「ひらいたトランプ」1936Pと「五匹の子豚」1943Pでベスト10にする。クリスティー生涯の最高傑作は「愛国殺人」だろう。