人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出8

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入院前の、最後のアベさんの訪問看護の時、アルコール依存症治療についてはひととおり訊いた。アベさんはアル中治療日本一の久里浜病院に研修経験があるのだ。アベさんは具体的に、丁寧に説明してくれたのだが、その時はまるで実感がわかなかった。それのどこがアルコール依存症治療なの?そんなことしてなんになるの?という感じしかしなかったので、聞いた話は右から左へと流れてしまった。たぶんこんな感じだったはずだ。
「みんなで浜辺を走ったりするんですよ」
「はあ」
「体験談を話しあったりもします」
「はあ?」

入院前に、人を介して親しくなった年長の友人のホリグチさん(末期ガンで、声帯を切除していた)にミックとキースを描いた鉛筆画と、エリック・クラプトンの分厚い自伝を贈られた。本は重いので入院前に読んだが、後半三分の一は音楽の話はほとんどない。クラプトン自らが「ライフワーク」と言っている禁酒活動団体の話題になる。アベさんの話同様、それらがアルコール依存症の治療の現場ではどんな意味を持つか、入院してからわかった。

M市のY病院は最寄り駅から一時間に一本のバスで一時間かかった(退院間近に自宅外泊練習の時はバスを逃してタクシーに乗ったが20分程度のものだった。さんざん迂回するバスしかないということだ)。陸の孤島のような、山の中に精神病院一軒、病院には売店がないが国道をまたいで貧弱なコンビニ一軒。病院には入院患者が150人以上いるので、患者の買い物で持っている店なのだ、と入院してからわかった。

診察日時は予約してあった(向うから指定された)。メンタル・クリニックからの紹介状を受付に出し、わざわざ話す内容を考えるのも面倒なので職務経歴書と同じような形式で生活史と病歴をまとめておいた。身体疾病、失職、精神症状、離婚、入獄、発症、障害者認定、生活保護、通院療養、入院、自己破産(病状悪化による)、再入院。これまでさんざん他人に話してきたことだ。

入院の場合主治医になるD先生は目を丸くして聞いていたが、読み終えると、
「そちらをコピーしていいですか?」どうぞ、と渡すと看護婦を呼んで経歴書を渡し、向きなおると、
「あなたはアルコール依存症です。帰りに受付で入院予約日を取ってください。クリニックへはこちらで受診結果を報告します」
血液検査も尿検査もなかった。