人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出13

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・3月6日(土)雨
「D先生による素行診断で月曜日から第二病棟(アルコール依存症治療病棟)に移ることになった。煙草もやっと自己管理になる。Kくん、Mさん、Sくんに喫煙室で報告。三人ともしきりに残念がる。風の又三郎だな、とMさんがうまいことを言う。面映ゆいが、ぼくが来てから単調な入院生活が活気づき楽しかったらしい。『ガリヴァー旅行記』読み始めるが、癖の強い内容なのとルームメイトとの雑談で今日は68ページまででひと区切り。なんとなくMさんたちが、ぼくの移棟を惜しむのがわかる気がする。あの三人は一見親しげだが、ぼくが加わっていない時の様子は妙にぎこちない感じがする」

「夕食後、Kくんと躁鬱病談議。これまでの入院で自分と同じ躁鬱病の診断を受けている人とは知りあったことがないので、しかも同い年とあっては妙な気分になる。病気について患者が患者にレクチャーするというのも変な話だが、彼は双極性障害1型についてほとんど知らなかった。彼から聞くには、統合失調症のSくんは先二年間の入院を告知されているという。Sくんは生保暮らしだから、入院期間が半年を越えれば家賃扶助の受給資格がなくなり、ホームレスの状態から二年後の退院生活を始めなければならない。KくんはSくんに侮蔑の感情を抱いている。Kくんの住む横浜の高級住宅街に隣接して、Sくんの住むスラム…ドヤ街があるからだ」

「Mさんの入院経由も壮絶だ。大手私鉄の建築事業を一手に仕切る大手建設会社の御曹司だが、ベンツが大破する大事故を起したらしい。KくんはMさんを親分と呼ぶ。一方(たぶん)知的障害もあるHくんや、同じ食卓を指定されているTさんを理解できない、毛色が違うと嫌悪している。彼には明らかに学歴や職歴による差別意識があり、彼自身は非常に高いエリート意識があって、精神通院一年、これが初めての入院では仕方ないかもしれないが、他の患者への偏見と他人への好悪が非常に強いのだ。それをSくんもとっくにわかっていて、KくんとMさんからの軽蔑を知りながら心の中で舌を出している」

「就寝前にはTさんやSさん(女性)、保護室から喫煙で一時解放してもらっていたNくん(食卓が同じ。食事と喫煙だけ出してもらえる)に報告。Kくんに頼まれ、公衆電話横のメモ用紙に推定できる彼の躁鬱症状と人格障害を作成し始める」