人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出19

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・3月13日(土)晴れ
「Smくんは妻帯者なので二泊三日の週末外泊だったが今日はもっと多く、病棟は八人ほどになる。昨夜はピクニックと説教、おまけにKくんから強引に第三に一昨日入院してきたIくん(34歳、ドヤ、生保で重鬱と不眠、対人恐怖症)に紹介され(注1)、Sgさん(女性、25歳、病名不明だが明るいタイプ・注2)を押しつけてKくんは喫煙室に行ってしまい、おかげで朝まで疲労からぐっすり眠る。朝食後コンビニでアル中学習用ノート購入。Sくんがベンチでおやつを食べていた。彼もドヤで生保だから、話を聞いているうちに誰の経歴がどうだか混乱してくる。Yくんも将棋好きなので対局すると、一局目で偶然勝ってしまう。もう二局差したがYくんがあまりに強いので降参する」

「Kくんによれば、IくんともSgさんにも一昨日会ってるはずだと言うが、寝込んでしまった日なのでその日第二に来たYくんしか憶えがない。Nくんの第一への送別会(注3)なら憶えている。MさんまでKくんのような躁状態になり、資格取れよ、上昇志向を持て、モチヴェーションが大事だ等々的外れな励ましをして浮かれるのが意外だった。Sくんのように二年間の入院を宣告され、半年目には生保の家賃扶助を失うから家財道具は一切処分し、入院中は減額された生保扶助からなんとか安アパートの入居費を貯め、生活用品は毎月少しずつ揃える、という厳しい覚悟を決めている人には、特許料と株式運用で暮しているKくんや、大手私鉄傘下の大建築会社御曹子のMさんなど他人事でしかないに違いない」

「風呂でTさん(初老、ドヤで生保)と隣になったのでYくんと差してみませんか、と勧める。上がってみるともう差し始めていた。五局休みなく差し続け、Yくん五連敗。喫煙室から眺めながらKくんに、人と人を引きあわせるってこういうことさ、と言うと、別に将棋じゃなくてもいいじゃねえかと反論にならない反論。でもYくん生き生きしてるだろ?と言うと悔しげに黙りこんでしまう。YくんはTさん強いや、でも次は勝ちますよ、と嬉しそうだった(注4)」

(注1)彼はKくんにはドヤ暮しを隠していた。
(注2)実は統合失調症と重度の人格障害を秘めていると後でわかった。
(注3)第二と第三は行き来できるが、第一は離れで行き来できない。
(注4)不眠症のYくんがその夜は八時間眠れた。