人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出50

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・3月21日(日)晴れ
〈祝・春分の日
(前回から続く)
「そうでもないよ、第三病棟でアルコール科が五人待機中らしい。しばらくしたらこっちに移るだろうし、男女の比率によっては部屋替えもあるかもね。Kくんは一般科だから第三に戻るか第一病棟送りの可能性もあるよ、と言うと、やめてくれよ!せっかくここに馴れたっていうのによ(つい二週間前までは何でおれが第二なんだよ、と当り散らしていたのに)と彼はムッとし、それ誰から聞いた?誰だっけな?HAだったような気がするな。よし、喫煙室に行こうぜ(注1)」

「廊下を歩きながら男部屋と女部屋の空きを数え、六人分は空いてるな。喫煙室でまず作戦を練るかと思いきや窓際にいたHAに直行して、第三から五人来るってどこで知った?え?私知らないよ。第三なんて薬飲みに行ってさっさと戻ってくるだけだもん。その時そばのテーブルにはおばさまたちとYzさんがいた。そういう話があるらしいんだ。私知らないわよ、とKdさん。なおも噂の出所がどこか食い下がるKくんを置いて喫煙室で一服していると、まもなくKくんも来る。絶対あの女だ、噂流してんのは(注2)」

「アル中患者は酒さえなければまともだよ(注3)。出てったじいさん(Tiさんか)みたいなのが来るのがヤなんだよ、どうせあいつホームレスだろ、それで入院すりゃ生保一発だ。簡易宿泊所かもしれないね。あの女だ、とKくんはしつこい。彼は患者の出入りや移室が嫌なのだ。それにあのおっさんふたりは一日中新聞やマンガ読んで風呂も一緒に入りやがって(注4)、MさんとSmくんが来れば最強の四人部屋になるのに(注5)と毎日聞かされる台詞をまたぼやかれる」

「一服しにまた出ると湯上がりのAtさんから今空いてるよ、はい。夕食の一時間前でちょうどいい。入浴前に体重計に乗る。入院第一週56kg、第二週57kg、第三週58kg、現在59kgといい具合に増やしている。60kgが適正体重だから、これも入院の成果だ」(続く)


(注1)Kくんは思い立ったらすぐ行動の男だった。つきあわされる相手の都合などかまわないのだ。
(注2)実に精神病院的な光景という感じがする。
(注3)他の精神疾患を併発していなければ、の話。
(注4)佐伯くんが行くならおれも、の彼が言えたものではない。
(注5)入院は仲良し患者の合宿ではない。