人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出55

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・3月22日(月)晴れ
(前回から続く)
「HAの場合これまで接した妄想患者と違うのはまさにその被害妄想で、それは攻撃的な性格の裏返しだろうと思える。やっと人格障害に思い至った。自己愛型と演技型の混交、そんなところか。いったい彼女にどう言い寄ってつけまわしたか教えてほしいものだが(それによって彼女から見た、妄想あるいは幻覚上のこちらの仮想パーソナリティは興味深い)ストレートに本人から訊けることではなく(かえって危険だ)、たとえばKdさんに相変わらず佐伯さんが言い寄ってくるの?何て言ってる?どんなふうにつけまわされてるの?等カマをかけてもらうわけにもいかない。とにかくなるべく距離をおく。会話は一切しない。あとは妄想や幻覚も薄れて、できれば忘却(あるのか?)を待つしかない。治療を受けに入院してきてこんな火の粉を自分で払わなければならないとは笑うに笑えない」

「昼食、隣席のKくんは七分刻みのミックス食で、そぼろがけのお粥にサラダもブロッコリとレタス、トマトが粥状で、かろうじて色で野菜の判別がつく程度。ポテトと玉ねぎのコンソメスープも具が粉々。味噌汁の味がする、とKくんぼやく。フルーツポンチも桃やキウイの形状が見事にないが、これは食べられたようだ。いつも彼の偏食の完食アリバイ係をしてあげているが、さすがにミキサーにかけてドロドロの野菜サラダは勘弁願った。みんなが今日のメニューのケチャップ炒めチキンライスをおいしそうに食べているので、そぼろ粥のKくんは余計に悔しそうだった(注)。同じテーブルのUzさん、今日の散歩は良かったわ、今年初めてのウグイスの声が聞けて、とほのぼのとしたことを言う」

「昼食後はのんびり、今日も振替休日だからラジオ体操も掃除もなしの三連休。いつのまにか眠りについて四時に婦長の点呼で起される。点呼だけ答えて30分ほどゴロゴロして起きだす。Kくんは鎮痛剤が効いたか点呼の後も昼寝の二度寝で熟睡している。今週の入浴順は女性が先だが男性時間の一番風呂なら夕食前に間に合う。湯上がりの一服をしているうちに夕食到着。ふくさ焼きのあんかけなんて初めて食べたが、ふくさと絹ごし豆腐はどう違うのだろう?」(続く)

(注)通常ミキサー食は胃腸切除患者、咀嚼困難患者に出される。彼の場合は虫歯だから、見ていても気の毒だった。