人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟の思い出60

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・3月23日(火)曇り
(前回から続く)
「Kくんが移室者を非常に気にしているので(正しくは自分に累がおよばないかを気にしてイライラしているのだが)自室に戻る時に向かいの部屋の名札を見てみる。看護婦が説明していた時に男二人の背中が見えて、ひとりはImくんで当たり、もうひとりはMsくんかと思ったが知らない人だったからアルコール科、それもリピーターの公算が高そうだ。リピーターは第三病棟でのいわば‘慣らし’期間なしに第二病棟に来ることも多いようだ。それと、どうでもいいようなことだが、Mtさんの年齢は推定60歳前後に下方修正」

「―栄養教室は眠かった。このくらいは誰でも知っているだろう、と言いたいところだが、では自分はいつ知ったかといえば成人病の健診で一時期高血圧が指摘され、成人病の食生活について調べたからだったので必要な授業には違いない。今回の入院も初日は上が190、下が140というとんでもない数値が出たが、二日目には上120、下90と正常値に戻っている。その後も血圧は問題なく(脈拍が低めなのは気になるが)、規則正しく飲酒抜きの生活の成果は確かにある。一方煙草は増えている。これまでの精神科入院は喫煙制限が厳しかったから一日せいぜい10本を時間配分して喫っていたが、このアルコール科では禁酒の代わりに煙草だけは自由で喫煙室も24時間開いているし、女性も含めてほとんどの人がヘヴィ・スモーカー(お酒を止めると煙草が増える、という事情だろう)なので釣られてついつい喫ってしまい、普段の生活の倍は喫ってしまう。間食や菓子はまったくいらないが(おすそ分けされればいただくが)煙草だけは欠かせない。倍も喫煙しているのに血圧はむしろ良好になっている」

「部屋に戻って日記を書き足し『レコードコレクターズ』のトム・ウェイツ(苦手で興味もない)特集を読んでいると(Kくんは不在)Atさんがはい、と言ってヤクルトを一本くれる。ありがとうございます、いただきます。佐伯さんは何を勉強なさっているんですか?とYnさん。いや、ただの楽しみです。そうですか。このお二人から話しかけてくることは珍しい。部屋ではKくんと話し込むことも避けているし、静かに日記を書いているか読書してるか寝ているかで、きちんとあいさつもするし、初老のお二人に礼儀正しい青年と思われているなら嬉しい」
(続く)