人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記75

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・3月25日(木)雨
(前回から続く)
「入院以来煙草の本数は増えていくばかりで、昨年初夏に入院したSD病院では段階的にナースステーションに預けてある煙草を一日何本まで、と増やしてもらえるのが限度だった。就寝の9時には完全に消灯されてしまうし、退屈で寝つきが悪い分ようやく2時3時を過ぎてから眠り、そうなると6時半の起床時刻になど起きられない。朝食ぎりぎりの7時45分まで寝ている。喫煙室も8時半には施錠されるし、喫煙が許可されても最初は一日三本、短期入院といっても急性症状の安静の目安は三か月あって、退院間際になっても一日の喫煙許可は八本~十本がいいところだ。一日のうち均等な時間配分になるように計画的に喫っていた。ゴールデンバットは両切り煙草だが、指先だけでつまんで唇が焦げる寸前のギリギリ根元まで喫う癖がついてしまった。一本のゴールデンバットは7分間味わえることがわかった」

「このアルコール科病棟は飲酒習慣がある患者が断酒を強いられる埋めあわせに喫煙室は24時間出入り自由になっている。おかげでこれまで一箱20本が一日の目安だったのが40本~60本になっている。起床は6時半だが朝食の7時40分に間に合えばいいのだし、部屋の消灯は夜9時だがベッドサイドの灯りは11時まで使用してよく、デイルームも11時消灯だから一日が持て余すほど長いのだ。それに喫煙室で内緒話が始まると会話中は次から次へと喫い続けるし、きりがない。文字通りチェーンスモーカーになってしまう。Nk画伯に忠告受けた昨日の今日で相変わらずではまずいから、喫煙室への出入りの回数を減らす、もしくは画伯の不在の隙を狙って喫いに行くとなると、結局一度に何本も喫うことになるのは目に見えている。そうしてニコチンの血中濃度を絶えず保つわけだ。禁煙外来科の医師なら絶句するだろう」

「Fさん退院後の患者会代表に推挙されていることと理由は同じだと思うが、たぶん病棟中でこれほど誰からも話し相手にされている患者は他にはいない。だから喫煙室に入ると必ずなにかしらの話題を振られてそうですねえ、とかなるほどねえ、とか受け流しているうちに煙草の本数ばかりが進む。単にお人好しというだけのことでもあるし、集団では本来躁鬱病にとっては危険な社交性スウィッチが入ってしまう、ということだ。これは本当に期間限定でないと危ない」(続く)