人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記91

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・3月27日(土)晴れ
(前回から続く)
「Atさんが今日もお菓子をくれたが、Pascoつぶあん豆大福の一個包で値段シールは84円で、ありがとうございます、いただきますといただいたが、数個入りからおすそ分けではなくまるごと一個包ではプレゼントだ(自分の分も買ったとしても、わざわざくれる分まで買ってきてくれたことになる。毎回そうなってはおたがいに良くない)。数日前に佐伯さん、しち、しち…。しち?漢字でしち、しち…と転がるジェスチャーをして尋ねられて、七転八倒、ですか?そうそう。退院発表の酒歴レポートを書くのに苦労しているのだ。図書室でもNk老画伯に漢字をメモ用紙に大書きしてあげたことがある。画伯は30歳でペルーに渡り、故郷の沖縄の日本返還(返還と言えるならば。日本→アメリカ→日本と植民地としての属国が換っただけだろう)の年に帰国したという人だから日本語の読み書きが不自由で辞書と首っ引きなのだが、画数の多い漢字が辞書の小さな文字では写せなくて困っていたのだ。こんなことがたびたびだから、他の人にも目撃されて病棟でいちばん親切な佐伯さんになっている」

「読み書きで身を立てていたような人間は例外で、大概の人は日頃レポート用紙数枚の作文をする習慣などないのが普通で、入院中でも毎日半ペラ(200字詰原稿用紙)10枚相当の日記、これはプロの文筆家なら少ない方で日当数万円程度だが買い手がなければただの反古で、退院発表のためのレポート程度ならいっそ全員の代筆を請けてもいいくらいだ。著名な漫画家さんならEYさん、MJさん、YSさんにASさんのゴースト・ライター(エッセイ)をした前科がある。だが入院中に医療の迷惑になるような商売をするわけにはいかない」

「Atさんが差し出してきた下書きには、Atさんなりに考えてみたのだろう、何十もの漢字がばらばらに書いてあり、半数あまりが偏や旁り、冠が当用漢字には存在しない組合せで(どんな造字でも許容するのが漢字だが)七転八倒、と書いてあげるとAtさんは自分で隣に大書きするので、もがき苦しむ、という意味ですね?そうそう、ありがとうございました(Atさんはあいさつの言葉ならそれほど苦労せず言える)。言語障害だと発声だけではなく言語能力の全体的な統括力自体が阻害されるのだろうか。豆大福はその時のお礼なのかもしれない」
(続く)