人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記116

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・3月30日(火)曇りのち晴れ
「会話の後Kくんはデイルームに戻って行ったので書きかけの日記を書きつづける。読み返すこともなく他人に見せることもない日記をなぜ書くか、といえば娘たちのために、という他ない。余命10年(そんなに!)という宣告だか予測、または忠告もされているし、娘たちが父親と連絡を取ろうという気を起こすとしてもずっと先のことだろう。その頃まで生きているとは考えづらい。遺品の中からノートが見つかり、それが日記だとわかれば、父親がどんな人間でどんな生活をしていたかがわかる。読まなくてもいい。最後まで何かを書いていた、という痕跡を残せれば十分だ。ろくでもない父親だったと思うなら、それもいい」

「一服しに行き、デイルームをふと見ると、われわれのテーブルがKwたちに占拠されている。夕方に喫煙室で看護婦に注意されてからは図書室で騒いでいたが、21時施錠された後は足回りの悪い(そりゃそうだ)車椅子のKuが同じテーブルなので、KwやSkも集まりわいわい騒いでいるのだ。女の人たちは連中からなるべく離れたテレビ付近に身を寄せあっている。姿がないのでKくんはMさんとSmくんの部屋にでも押しかけているのだろうが、この光景を見たらどう言うだろうか」

「次に喫煙室に行くと、デイルームにはMtさんしかいなかった。連中は散会したか、ついこないだまでいた第三病棟にでも行ったか、原則他人の寝室には立ち入り禁止だが守るような連中じゃないので個室の車椅子の部屋にでも場所を変えたか。やがてKくんが、もう薬飲んできた、おれは遅効性なんだ。そうかい、おれは早くても遅くても同じだよ、横になって寝ようと思えば効いてくる。だったら早く飲んで一服しようぜ」

「一緒に一服して部屋に戻るとAtさんもYnさんも熟睡していた。あー(とKくん)MさんとSmちゃんあの二人と替えてくんねえかな。おれは別にこのままでいいよ。だって親分とSmちゃん来たら朝まで生テレビだぜ。おいおい、Mさんたちも休みたくて入院してるんだぜ。また日記に戻って終えて、『天』の続きも読みたいが隣のやつが愚痴や不満、悩みを話してくる。それでも遅効性と言いながらだるくなってきたらしく、11時まではいいんだよな、と言いながらがさごそ整理している。今日はこれ以上何かの目撃者になりたくない。おやすみ、カーテン引くぜ。おう」(続く)