人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記127

イメージ 1

・4月2日(金)雨のち曇り
(前回より続く)
「そんな具合に昼食は楽しい席になったが、夕食直後にはまた誰もが恐れていたことが起った。実は朝から喫煙室の話題といえばそのことだったのだ。まさか今日は昨日のようなことないよな。ないと思うよ、昨日の今日じゃ、ナースステーションでも警戒しているだろうし。食卓でも少し話題がそこに触れかかって、何よ昨日のことって?と天然なKdさん。Tkさんはすぐ気づいてUzさんとKdさんに目配せする。早食いのKuが車椅子ごと去った後、さすが中ではいちばんボケていないだけあるね。それってほめ言葉になってません。ボケてるって何よ、私のこと?ぼくとKくんですよ、あいつも同じ席だって忘れてた。TkさんがKdさんに車椅子をこぐミミックをする。ほら、昨日あったでしょう?あ、わかった」

「Kくんはじっと灰皿を見つめていたが、あっ、そうか、わかった。うん、おれもわかった、今日はコーヒー牛乳がこぼれていない。あいつが代わりに買ってきてやってたのか、あいつは決まりなんか守らないで先に行くから、おれはいつもコーヒー牛乳買えなかったんだ。おれたちもみんな馬鹿だな、車椅子のやつがなんでいつもコーヒー牛乳飲んでるか、狼藉ぶりに気をとられて入手経路に気がつかなかった。そういう裏があるなら昨日のあれも想像がつくな、ギヴ・アンド・テイクに亀裂ができたな。病院じゃ現物で返せないだろうから、あの電話が怪しいな、車の購入の保証人の話あったが、本人は保証人にはなれないから誰かを紹介したのか?あいつらに関しちゃ何でもありだな」

「夕食を終えたKuが車椅子をこぐ音がして、食事終りました、夜の薬ください、とナースコールする声が聞こえた。瞬間、デイルーム中の空気が張り詰めるのを感じた。背後なので見えないが車椅子のKuの隣にいつの間にかKwが立っていたのだ。…それから今Kwがここに来てます、とKuは震える声でナースコールを続けている。お前!コーヒー牛乳どこへやった!とKwは怒鳴り始めた。知らないよ。…コーヒー牛乳だよコーヒー牛乳!コーヒー牛乳!18本買っておいてやったのにねえんだよ!知らないんだってば。てめえ!いつまでもしらばっくれてんじゃねえ!すぐに看護婦が来た。戻りましょうね。おれのコーヒー牛乳18本…。古くなった物は処分しています、はい、今いる病棟に戻って」(続く)