人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記131

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・4月3日(土)晴れ
「昼食後、彼にしてはやけに真剣な様子だったし、もともと彼はいつだって真剣なのでそれが笑いを買っている、というだけだ。だが本人にしても相談事か愚痴かの違いくらいはついているだろうから(いくらなんでもそこまで馬鹿ではないくらいは信用しているし、彼にもそのくらいの分別や礼節はある)、となると本心から相談事というのがあることになる。冷たいようだが本人が本当に解決を望んでいることほど他人のアドヴァイスなど何の役にも立たないことが多い。せいぜい話して気持の整理がつくのに役立つ程度のことにしかならない。それでもいいと本人も思っているとしても、なにしろKくんは自分でも認める重症のかまってちゃんでもある」

「最初は喫煙室で雑談から始まった。男女混合病棟に入院すると誰が誰に求婚しただの、大概された方はその気はないから退院するまでひたすら避けるのが大変で。佐伯さんモテるのね。モテるというよりは、ぼくは短期入院だから長期入院の女性患者には当然出会いのチャンスってないでしょう?それに相手も長期入院だったら二人とも入院しっぱなしだし。退院する相手と結婚できれば一番の親族が配偶者になるから、親兄弟ではなく配偶者が引取人になって退院できる可能性が出てくる。長期入院しているほどの障害等級なら障害年金で自分の分はなんとかなるので、一人でなんとか生活している相手を見つければ生計の方もなんとかなる、と、そういうわけです。結構計算高いのね。まあ、いいカモですよ。するとKくんが突然、図書室で話そう」

「それまで彼が後で相談事がある、と言っていたのを忘れていたから、Uzさんと顔を見あわせてついて行った。なんで図書室?まあKくんが予想不能、悪く言えば手前勝手な言動に及ぶのは馴れてもいる。図書室のドアを閉めると、Kくんは開口一番、言われちゃったんだ。はあ?一緒に暮らさない?って言われちゃったんだ。誰に?お照さんに。それって他人から聞いた話なのかい、Kくん本人にお照さん本人が言ったの?本人から言われた、どうしたらいいんだろう。冗談よ、お照さんご主人はいないけど大きな息子さん二人もいるし。養子縁組って話でもなさそうだな、きみとお照さんしょっちゅう一人暮しは寂しい、って話ばかりしていたし。きっとそのノリで言ったのよ、軽い冗談。でも冗談言ってる顔じゃなかった」(続く)