人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記160

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(人名はすべて仮名です)
・4月7日(水)雨のち曇り
(前回から続く)
「勝浦くんと清水くんには朝から予兆はあった。朝食前からしみちゃん、きみは鬱だけじゃなくて躁鬱なんじゃないの?そうですか、そう見えるかなあ。今朝もいきなりハイテンションになってるじゃん、おれが躁鬱だから言うんじゃないけどさ、どう思う佐伯くん?おれは医者じゃないからわからないよ。でも躁鬱だろ?だからって他人がそうなのかまでわからないよ。ほら、躁なんだよ。いや、そういう意味じゃ…。勝浦くんたちは、言ってはなんだが明らかに二人とも躁状態だった。そのうち二人して躁鬱の自助グループを作って院内ミーティングを開こうという計画を練り始めたので、今日はなるべく彼らと距離を置くことにした。鬱はともかく、躁は伝染しやすいのだ。それが集団化すると、ファッショと呼ばれる現象になる」

「まあ幸いここは基本、アルコール科病棟だから、平均的には軽鬱気分の入院患者ばかりが集まっている。だが朝の全体会で清水くんが、勝浦さんと二人で躁鬱の自助グループを作りました、院長から直々に許可を取りましたので、今夜7時から面会室で院内ミーティングを開きます、ご自由にご参加ください、と発表したのは嫌な予感がした。清水くんは顔を興奮で紅潮させていた。鬱病への処方では気分高揚剤が出されることがある。これは実は躁鬱病だった場合躁転を促してしまうから危険性も高いのだが、彼の場合はまだ鬱病の診断だからしばらく前の落ち込んでいた時期から気分高揚剤が処方されている可能性もある。全体会の後で、清水くんに得意気に佐伯さんも出てくださいよ、と声をかけられたが、客観的に見て自分たちが馬鹿に見える、という自覚すらないわけだ」

「アルコール科授業への出席も院長への質問ぜめも躁から来る悪乗りだったのだろう。終了後部屋に戻ると渥美さんから牛乳と菓子パンを頼まれてコンビニへ、帰ってくると根島看護婦と勝浦くん・清水くんたちがナースステーションの窓越しに口論している。アルコール科じゃない人は主治医の許可を取ってから参加してください。それじゃ今まではなんだったんですか!窓口脇のノートに外出・帰棟の記載をしながら、短いやり取りだけで事情は判った。要するに授業妨害として田島院長から看護スタッフに注意があったのだ」
(続く)