人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記161

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(人名はすべて仮名です)
・4月7日(水)雨のち曇り
(前回から続く)
「院長からの注意があったとしても妥当で、授業内容はアルコール依存症を肝機能と結びつけた学習だからアルコール科患者にとって知るべきはそれでいい。松本さんの口癖通り、無駄な知識はいらない。重要なことだけしっかり覚えればいい。だから、アルコール科ではない勝浦くんと清水くんは重箱の隅を突くような質問を連発し、仕舞にはでもアルコールって代謝され尽されると酢になりますよね、とまで発言し周囲の苦笑を買った。授業の後で松本さんも、おい、高校受験じゃないんだから酢がどうとかそんなことはいいの。勝浦くんは親分からの注意は素直に受けていたが、医療スタッフから勝手な参加は認めません、と叱責されると清水くんと二人してキレたわけだ。躁の時は当然普段よりキレやすい」

「そもそも院内自助グループというのも馬鹿げたアイディアで、今いる人たちは遅かれ早かれあと1、2か月で退院するし、勝浦くんは診断済みだが、清水くんの場合患者が自己診断すべきではないだろう。嫌な予感がこんな風に当たるのもあまり気分のいいものではない。だからと言って彼らに意見して、ついでに午後の授業も出ないほうがいい。どうしてだよ?きみたち二人ともいま躁転しているから、なんていうのは喧嘩を売るようなものだ。躁転状態は喧嘩上等でもあるからかえって刺戟しかねず、あそこまで授業中に騒ぎ出すとは思っていなかった」

「部屋に戻ると渥美さんは牛乳は飲みきり、菓子パンはまるごとくれた。いいから、いいから。それからレポート用紙さらに一枚追加分、酒歴発表の原稿を夕食を挟んで渥美さんから聞き出して起承転結の体裁をなすようにまとめる。推敲もこれで三回目くらいか、渥美さんも満足してくれた様子で、こちらもひと仕事した充実感がある」

「一方勝浦くんたちは頓服の精神安定剤を処方され、夕食と就寝前薬以外はずっと眠っていた。当然躁鬱病自助会などお流れだ。彼らははしゃぎすぎた。午後に中里さんという派手なみなりの女性患者が梅崎さんの元いたベッドに入った。あれは普通の職業じゃない、と元警官の渥美さん。昨晩仲村画伯と降谷さんとの会話を偶然耳にして彼女が躁鬱病というのも驚いたが、就寝前薬も第二病棟窓口21時が慣習化して、なにが起きてもおかしくないような状況になっている」