人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記169

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(人名はすべて仮名です)
・4月9日(金)晴れ
「受診を終えて、病院食のライスの大盛りがあっさり通ったので嬉しい。言ってみるものだ。アルコール依存症と診断された人はなにかしら成人病に踏み込んでいる可能性も高いわけで、少なくとも身体的には健康体だと認められていることでもある。入院していると空腹感とは別に食事はほとんど唯一の楽しみで、未決囚監などでもあれは実質禁固だから労役はなく空腹になることもないが、出された刑務所食だけはやはり唯一の楽しみだからむさぼるように食べる。刑務所食は禁固の代償のように分量だけはたっぷりとあった」

「部屋に戻ると渥美さんは追補部分と構成を入れ替えた下書きを清書中、日記も溜めるときりがないので一昨日の続きから書き継ぎ、やがて渥美さんが清書を終えて見せに来る。清書は本人がしなければならないから手伝えるのは下書きまでしかないが、渥美さんならずとも普段作文の習慣がない人にとってレポート用紙二枚は大変な作業だろう。ライター稼業だった人間にも、だからこそ、というべきか、自発的に作文する困難はよくわかる。ライターは体験の言語化は馴れているが、それはあらかじめ体験自体を言語化して認識する習慣がついているからであり、その備えもない状態から素手で書くのはライターだって難しい」

「渥美さんの様子が自信なさげなので一読すると、なるほど渥美さんも困ってしまった理由がわかる。看護婦からの注意点を満たすとなるとあと二項目書き込まなければならない。とりあえずこれで一度提出してみましょうか?やはり心許なさそうだ。あと二項目とはいえ、渥美さん自身が納得でき、実行を約束できるこれでなければならない」

「根島看護婦から駄目出しされているのは、その一、自助グループへの参加の意志(行きたくない。病院のデイケアには「かあちゃんがこわいから行く」)。その二、今後の生活設計(ご隠居さん以上の回答を要求されているのは明らか)。そうこうしているうちに第三病棟から角刈り茶髪中年男性の尾崎さんが冬村さんと坂部の四人部屋に入り、二床部屋だった仲村画伯と松葉杖の杭瀬さんが各々一人空きの四人部屋に。杭瀬さんは柳瀬さんのいたベッドになった。物静かで穏やかな人だからひと安心だが全員に一人ずつ丁寧にあいさつするので、ちょっとボケてんじゃねえの、と勝浦くん」(続く)