人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記175

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(人名はすべて仮名です)
・4月11日(日)晴れ
(前回から続く)
「土曜日は掃除があるが日曜祝日は掃除もラジオ体操もないので、昼食後は午後四時の点呼で生返事する以外ずっと寝ていたが、四時半には自然に目が醒めてしまったので、一番風呂に入る。湯上がりに一服して部屋に戻ろうとすると松本さんが妙に機嫌がいい。酒歴発表が出来上がって担当看護婦に合格をもらった、読むかい?そう言われたら断る理由もないし関心がないのでもない。渥美さんと同時発表の予定も組まれている。渥美さんのお手伝いにまだ直しがあるなら、参考になるかもしれない」

「図書室で待つように言われる。なにも図書室で、と思ったが事前の第三者への漏洩は避けたいのかもしれない。松本さんの酒歴はレポート用紙三枚、案外丸っこい筆跡で、誤字脱字やてにおはの誤用、脱落もあったがそれは良しとして、どうだい?全部は本音じゃないですよね。いいんだよ、65点で。そうですね。昨晩勝浦くんが清水くんは最近同じ話の繰り返しが多い、松本さんもその気がある、と言っていたのを思い出した。入院患者は閑だから、内省的になって他人にも自分にも甘くなってしまうのだ、と三富朽葉の書簡集にあった」

「夕食前に清水くんが、彼は奥さんがいるから毎週末は帰宅していたのだが最近は帰宅すると奥さんが不満をぶつけてくるようになって今週末は帰宅しなかったそうだが、突然臭い!と騒ぎ出し、部屋の前を通りかかった羽田有紗に同室の松本さんの衣類を嗅いでもらい、清水くんが言うにはカメムシ臭いらしい。勝浦くんまで部屋のどこがどう臭いか駆り出され、その間羽田有紗が騒ぎ続けるので勝浦くんはついにキレて羽田を一喝してしまった、と勝浦くんから聞いた。気が済んだよ、黙りこんでた。嫌なことに巻き込まれたね、一喝する気持もわかるよ、でも糠に釘だぜ。のれんに腕押し、か。もう彼女の方じゃ覚えていないよ」

「そういえば数日前、この手の話はいつも喫煙室だが冬村さんに羽田が、知ってる?山崎さんの胃カメラの結果、ショックだった。知らないよ。私からは言えないけどとにかく大変なのよ…喫煙室にはわれわれだっていたのだが。しかも羽田の話題はすぐにお姉さんがNo.1キャバクラ嬢でね、と自慢話に移り、笑い転げていた。あの軽薄さは、勝浦くんが一喝してしまったのも無理はない」(続く)