人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記177

イメージ 1

(人名はすべて仮名です)
・4月11日(日)晴れ
(前回から続く)
「お照さんにそう誘われる前にも喫煙室の先客だった松本さんが、こうして皆でメシ食ってワイワイやってられるのも今だけだしな、と話に加わりに行ったが、やることがありますから、と断って部屋に戻る。つきあい悪いやつなのだ。工藤の第三病棟連れ戻し事件、正確には工藤の河出襲撃事件以来、21時に就寝前の服薬を第二病棟ナースステーション窓口で時間ぎめで行われる習慣、もうそれが当然のようなことになっている。少し前に行って一服して待つ。勝浦くんとお照さんが入ってくる。また自分の世界に浸ってんのか?いや、病棟という世界に浸っているんだ」

「また難しいことを言うなあ、と勝浦くん。あんた明るかったのに暗くなっちゃったわよ、とお照さん。その時デイルームの照明が同時に落ちた。本当に暗くなりましたね。窓口渡しの就寝前薬服薬が始まる。しんがりの方が空いてるな、と勝浦くん。そうだね。二本目の煙草に火を点けると、服薬を終えた冬村さんも一服しにきた。杭瀬さんと仲村画伯は二床部屋にいたがそれぞれ空きの出た四床部屋に移り、そこで三田さんへの苦情から一床部屋に移されていた羽田有坂が二床部屋に移ることになったのだが、羽田さんのいた一床部屋に移されちゃったよ、と冬村さん、いびきがひどいらしいんだ。確かに冬村さんと同室で平気だったのは退院していった聴覚障害の長谷川さんと、午前二時には目を醒まして朝までゴソゴソやっているという坂部くらいで、蒲田さんのように入院費は払わない!と激怒してハンガーストライキまでする人までいた。来たばかりの尾崎さんも二時間ごとに目が醒めちゃって…しかも冬村さんのいびきが、とこぼしていた」

「そういえば数日前、まるでタービンのような凄まじいいびきが208から響き、210の方も相当ないびきだったので挟み撃ちの209は半開きクッションを取って音を防いだことがあった。冬村さん本人はわからないらしい。佐伯くん、今月は音楽雑誌は?断酒会に行く15日が発売日なので、自分で買えそうです。行きは職員バスだから一時間くらい余裕があるよ。冬村さんは面倒見がよくて杓子定規でもないから病棟では慕われている。冬村さんの退院後は大変になるだろう。みんなが退院後も会おう、と言ってくれるのは嬉しいが、退院後にまで会いたい人は一人もいない」