(人名はすべて仮名です)
・4月19日(月)晴れ
「仲村画伯退院。年配の入院患者ほど治療の成果は高いというし、仲村さんは画家の仕事がなくなってから不本意な仕事に就いてそのストレスからアルコール依存症になったのだが、退院後にはご隠居さんになり好きな絵を描く、とご家族も同意してくれているそうだから、アルコール依存症に戻ることはないだろう。あなた高校生ですか?と、初対面で訊かれたのは忘れられない。佐伯さんそういえば、と昨夜滝口さんに訊かれた。胸毛のある人って結局誰なんですか?明日退院の仲村さんだよ」
「日帰りしてきた滝口さんは村上春樹『1Q84』三部作を揃えて持ってきた。私とりあえず完結巻から読みますから、と第一、二巻を貸してくれる。昨夜のうちに第一巻554ページ中446ページまでを消灯までに読む。朝食の席で報告、どうでした?面白いね、ここまでだとヒロインの話は作家の男の作中作かと思うけど。違うんですよ。そう?でもそういう錯覚する作りしてるよね。私はあまり思いませんでした。『ダンス・ダンス・ダンス』まで読んで離れていたからなあ、やっぱり面白さは抜群だね」
「朝の会の後は渥美さんのお伴と少年ジャンプ『HUNTER×HUNTER』立ち読み、それとゴールデンバットのカートン注文、水曜入荷。少年サンデー『絶対可憐チルドレン』の立ち読みにちょうどいい。『1Q84』第一巻は昼食前に読了し、第二巻にとりかかる。昼食の席で滝口さんとおたがいどこまで読み進んだか話す。滝口さんも結構速い。なるほど第一巻を読み終えると、この二人は出会うのか、って話になるんだね。私が読んでるところではまだ出会ってないです。昼食のピラフは珍しく病棟一致の好評。普段はみんな病院食に不満が多いのだ。一人暮しの男には結構なごちそうだからどこが不満かと思う」
「午後はビデオ学習プログラム『アルコール依存症の概要』。それ以外は寝室で読書に没頭する。夕食の席で滝口さんとおたがい今日中に読み終えそうと話す。勝浦くんが羽田有紗と言い合いになり、おれのことこのハゲって言いやがった、気にしてるのによ、とボヤくので、実際彼の頭頂部はかなり薄いが、それがタイプだっていう女性が今読んでいる小説に出てくるよ、と言うと滝口さんがウケてしまい、勝浦くんはますますしょげてしまった。消灯までに第二巻読了」