人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記194

イメージ 1

(人名はすべて仮名です)
・4月21日(水)晴れ
「朝食前に滝口さんに村上春樹1Q84』第三巻を返却し、朝食の席でおたがいの感想を話す。けっこう謎が残るけど主人公たち側にはあれ以上わからないから仕方ないのかな。私は気になりませんでしたけど。第三巻はかなり強引な気がしたね。それは私もです。主人公たちが動けないから脇役を動かすしかなかったんだろうね。そんな感じはしますよね。でも話題の新刊を発売すぐに読めたのは滝口さんのおかげなので、篤く感謝する。こんな機会でもなければ読まなかっただろう。現在の村上春樹の年齢で安部公房大江健三郎が発表した作品を思えば、村上春樹は現役感がある」

「朝の会であいさつを述べて、杭瀬さん退院。一服がやっとの短い間で全体会になる。四月中の退院者は杭瀬さんで最後なので、スケジュール決めもその他の事項の確認も普段よりさらに長引く。来月の酒歴発表が組まれ、佐伯さんは10日でいいですね?はい。退院予定日は五月末の予定だからやや早いが、遅かれ早かれすることだ。帰宅外泊練習も入院中の自助グループの外出参加もそれぞれ最低あと一回はこなさなければならない」

「午後のプログラムはAAの創始者の伝記映画。感想文の書きようがなく、20年代からのアメリカ世相史と主人公の人生の起伏が興味深かった、アルコール依存症そのものはテーマに感じなかった、と提出すると、テーマになってます、と朱書きされて帰ってきた。この病院は看護婦を教官にすべきじゃない」

「来月の酒歴発表者に項目別アンケートが配られ、もう提出しました。おれもです、と同じ発表日の盛岡さん。いつ出しました?入院初日。十分な振り返りがないので再提出して下さい。喫煙室で盛岡さん(同年輩)とやな看護婦だよなー、と悪びれていると冬村さんが入ってきて、聞こえたよ、二人ともかわいそーにね」

喫煙室に勝浦くんも来て梅崎さんの四年前のパソコンの引き取り・修理の話になり、冬村さんの彼女の息子さん・娘さんが社会人だというので訊くと、冬村さんより八つ上の54歳。以前に鬱の入院か外来かで待合室で知りあい交際を始め、病状のひどい時にはリストカット癖もあるというから冬村さんより若い女性を想像していたので、意表を突かれる。晩はデイルームで最終消灯までこれでもかと項目別アンケートを細かく記入する」