人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(8)

イメージ 1

イメージ 2

ムーミンがテーブルに戻ると意外にもレストランはごったがえしており、スノークとフローレンは兄妹で同じテーブルに、ヘムレンさんとジャコウネズミ博士は学者で同じテーブルに、近親相姦夫婦トフスランとビフスランは双子で同じテーブルに、ヘムル署長とスティンキーは手錠でつながれて同じテーブルに、ミムラとミイは35人の兄弟姉妹と揃って同じテーブルに、あの孤高のスナフキンすらニョロニョロの生えているテーブルで退屈そうにしていました。もちろん、ここにいない人もです。
話が違うぞムーミン、まあ後で殴るか、と偽ムーミンは頭のアホ毛をなびかせながらムーミン声モードに喉をととのえ、自然な第一声を考えながらテーブルの間を横切ります。
ちょうどムーミン家のテーブルにはスープが運ばれてきたところでした。まだムーミンが戻りませんよ、とムーミンママ。ならばなおのこと味見しておこう、とムーミンパパはムーミンの皿からえぐるようにしてすくい、おや、これは虫入りのシチューなのだな、ママのコロッケやハンバーグにもよく入っているアレと同じだ、テレビでよく、一匹見かけると30匹います、と言っているアレだ。レストランでも出すのだかられっきとした食用昆虫だったのだな。一匹見かけると30匹なんて、まるでミイの兄妹みたいですねえ。まったくだ、はっはっは。
その時ムーミンパパたちはまだ周囲に忽然とムーミン谷の人びとが現れたのに気づかなかったので、あのカバ野郎!とミイがいきり立つのも、待ちなさいミイ、とミムラが止めるのも気づきませんでした。だって。ここでは駄目、殺るなら外で殺りましょう。
とにかくパパ、とムーミンママ。ひと匙だってそれはムーミンのスープなんだから盗み飲みは駄目。仕方ないなあ、とパパは匙からスープを戻して、スプーンを舐めるくらいならいいだろう?駄目か?ではテーブルクロスの端で拭くぞ。
じゅー、っとテーブルクロスの端は音をたててスープのしずくを吸いこみ、みるみるうちに変色して溶けていくと、焦げ目のような跡を露出したテーブルに残しました。
化学反応ってやつだな、とムーミンパパ。面白くなってきたじゃないか。どうやらレストランで出る料理というものはわれわれが知っているつもりのものとはまるで異なるようだぞ。
あらどこへ行っていたのムーミン、とムーミンママはおっとりと、偽ムーミンに言いました。