人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(9)

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トイレだよ、と偽ムーミンはやや低い声で返答しました。今回は体ごとではなく精神だけを遠距離交換したので肉体は本物のムーミンですから、他人の体は発声ひとつとってもすぐには扱いづらいのです。
本当はいつものように肉体ごと、もっともトロールの体を肉体と呼べればの話、まるごと入れ替わりたかったのですが、事情が許さなかったのです。だからトイレというのもウソでしたので、善悪を超越した偽ムーミンの心にも、トロールの意識を心と呼べればの話、少し小さなトゲが刺さりました。
つい先ほどムーミンはレストラン全体の放心状態のなか、まんまとトイレに立ったのですが、ここのトイレは一旦廊下に出る配置でした。ムーミンのような低能児でもトイレくらいはわかります。ここだな、とドアの前に立つと、貼紙に、
・万年掃除中
とありました。ムーミンは偽ムーミンとの約束と鉄拳制裁を思い浮かべて途方にくれましたが、なんとかしなければとトイレに入りました。
掃除なんかしてないぞ、おかしいなあとムーミンが作業にかかろうとすると、個室から引きつったようなうめき声がしました。セックスかな?するとガラスの擦れあうような音もします。あっ、そうか。
ジャンキーだ!こうなるとトイレでボヤボヤしていられません。踏みこまれたらムーミンまで捕まってしまいます。こういうのは案外警察の事件捏造工作なのはヘムル署長からたまに聞きます。ムーミン谷では麻薬犯は無条件で死刑か完全な終身刑。法外ですがその方が面白いからです。
ムーミンにしては珍しく機転と実行力が一致して、咄嗟に洗面台の鏡を叩き割ると素早く大きなカケラを二枚選んで廊下に飛び出しました。ムーミンは悪を知らない種族なので公衆道徳クソくらえなのです。
・用具室
ムーミンは入ると、苦心して鏡のカケラを合わせ鏡にして自分の顔を映しました。一瞬遅れて、遅かったじゃないか、と鏡に偽ムーミンの顔の半面が映りました。それに全身が入っていないぞ。意識の交換しかできなかったのはそういうわけです。
ムーミンの言い訳と状況説明をフンフンと聞き、罵詈雑言をあびせ、ついでに戻る時はトイレでやるぞと脅して、二体のムーミンは精神交換しました。頭からは偽ムーミンを表すアホ毛フラグが立ちました。
さてムーミンも戻ったことだし、とムーミンパパ、食事を始めようじゃないか。