人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記202

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(人名はすべて仮名です)
・4月26日(月)晴れ
(前回から続く)
「午前中は酒歴発表で、今日の発表者は梅崎さんと滝口さん。発表が同日だということは入院も同期だったということだ。滝口さんは小学生のお嬢さんたちもいるのでゴールデンウィーク前に退院を早めてもらったというから、実際の入院時期は梅崎さんがやや早いのかもしれない。親しく雑談する仲でも踏み込んで訊かないことはある。その人ごとの性格もある。仲村画伯などは自分がアル中に至ったいきさつを普段からオープンに話していた。渥美さんは酒歴発表まで誰にも話さなかった」

「梅崎さんは普段から話していたことを筋道立てて話す、という風だった。二十歳で結婚して翌年お嬢さんが生まれたがすぐご主人を亡くした。ホステスになって女手一つで育てた娘が嫁いで一人暮しになると寂しくてたまらず、連続飲酒も職業柄慣れていたので朝から飲むようになったが、そのうち食事せずお酒の量ばかりが増えて痩せ細り、訪ねてきたお嬢さんの勧めで受診すると肝硬変一歩手前まで肝機能障害が見つかって、入院した」

「滝口さんは大学時代からいくらでも飲めるくちで、ザルと呼ばれていた。結婚後にお嬢さんをふたり設けて、二人目のお嬢さんが生まれた後は専業主婦になったが(それまでは製薬会社の研究員だった)、その後『ここでは言えない理由から』(と本人談)鬱病になって、鬱を晴らすために朝から飲み始めた。父母会や買い物も飲酒運転でがんがん行ったくらいお酒の力を借りていた。義理の姉が近所なのでよく訪ねてきたが、他人にも気づかれるほど酒量が増えていて昼間からいつも酒くさい、と身内で問題になり受診、それも毎回飲酒して受診していたので医師の所見も検査結果からも入院が決定する」

「昼食はカレーライス。二人とも肩の荷がおりた様子で、なにしろ梅崎さんなど読み始めは体が震えて泣き出しそうだったくらいだ。滝口さんは昼食後、特別に平日帰宅外泊しに行く。午後のプログラムはビデオ学習。夕方までに第三病棟から井上さん(一般精神科)、他の病院からの転院で大芝さん(アルコール科)の、男性患者二名が入る。この病棟もやっと馴れてきましたよ、と金子さんが言っていたが、癖の強そうな人だらけでかえって均質化したような静けさがある。ビデオ学習には既視感すらある。もう自分は古株の部類に入るのだ」