人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

文学史知ったかぶり(13)

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一般に、アメリカ初期自然主義を代表する作家にクレイン、ノリス、ロンドンの三人が上げられます。代表作から作風を検討してみましょう。

1.スティーヴン・クレイン(1871~1900)
・『街の女マギー』1893はアメリカ最初の自然主義小説とされます。ゾラの『居酒屋』のミニチュア版というべき不良少女の転落物語ですが、21歳の作者は叙述の不十分を印象的な断章で補う手法で小説を構成したため、題材は自然主義、形式は連作散文詩という奇妙な作品になりました。これは偶然にも20世紀の新しい小説技法の先駆的試みともいえます。代表作『赤い武勲章』1895はありふれた従軍兵士の体験を同様の手法で描き、アメリカ戦争小説の原点にして不朽の名作といえますが、以降の長編小説で同様の成功は納められませんでした。

2.フランク・ノリス(1870~1902)
・ゾラ影響下で人間の野性と欲望に着目、出世作死の谷』1899は平凡な若夫婦の社会的転落と犯罪を描いた重厚な作品ですが、事件の偶然性や誇張されたドラマ性が人間造形を外面的なものにとどめています。三部作『オクトパス』1901~では経済機構そのものを自然主義的把握の対象としました。欠陥は多いが小説構想の雄大さは同世代作家中随一でしょう。実作では十分に実現されませんでしたが、自然主義ロマン主義の拡張と捉えトータルな世界認識の方法とする論陣を張ったことでも名高い作家でした。

3.ジャック・ロンドン(1876~1916)
・労働者階級出身。1903年ルポルタージュ『奈落の人々』、動物小説『野生の呼び声』で大成功を納め、様々な題材の作品を世に送り、行動派作家として時代の寵児となった人ですが、その実は決定論社会主義から自然主義を把握した過渡期の作家といえます。ロンドン自身は非常に興味深い作家ですが、自然主義思潮との関係ではクレインやノリスのような革新性はありませんでした。ロンドン作品の大衆性も趣向の目新しさもそこに由来します。ただ、それでも生粋のアメリカ文学たる特色がロンドンを問題にするに足る存在にしており、前記の二作はロンドンでなければ書けない傑作です。

これら初期自然主義小説は小説としては試作期にあるものでした。ただしアメリカ文学は、自然主義小説によってヨーロッパ文学からはっきり自立したのです。