人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記214

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(人名はすべて仮名です)
・5月9日(日)晴れ
(前回から続く)
「一服終えて勝浦くんとデイルームの席でテレビを観ながら他愛ない雑談をしていると、勝浦くんが急に表情を引きつらせてこちらの肩越しを指す。姿勢を正すふりをして中腰になって座ると、背後にいつの間にか吉村くんが黙って座っていた。そしらぬ顔で勝浦くんと雑談を続けたが、不意に佐伯さん、お訊きしたいことがあるんですけどいいですか?なにかな?じゃ図書室で話そう。トイレに寄るから先に行ってて。おれまで妄想の逆恨みが矛先向いたか、おたがい知らない態度でいようぜと勝浦くんに目配せして図書室へ」

「吉村くんは鉛筆とノートまで持ってきていた。完全に目つきがおかしい。訊きたいことって何かな?お友達の勝浦さんのことですけれど…。友達?そういうのじゃない、昨日も言ったと思うけどルームメイトさ。吉村くんは実家にまで電話で問合せたという。勝浦さんはいつも怒っていますよね、と吉村くん、ぼくが憎くて、過去を調べ上げて、佐伯さんたちに広めようとしているんじゃないかと思うんです」

「唖然とするがそれは態度に出さず、逐一説得する。勝浦くんは粗暴に見える時も多いが怒ってはいないし吉村くんのことが彼と話題になったこともない。ましてや吉村くんが気にしている過去、暴走族のパシリを二年間やらされていたなど調べもしないし興味も持っていない。もし彼から言いがかりをつけてきたらおれが止める、殴りかかってきたり暴言を吐いたりしてきて(それはあるかもだが)吉村くんが困るようなことになったら止めるし、病棟内ではまず起こらない。尾崎さんも?大丈夫、安心していいよ。そう答えながら、吉村くんのあまりの病状にゾッとする」

「他人を困らせているのは彼の方だ、という自覚もない。とにかくトラブルには対処するから、と、本当はそんなことも請け合わない方がいいのだが、この場は仕方ない。彼は安心した様子で、ところで佐伯さん、教会に戻りませんか?籍はまだあるよ、でも今は他の教会に責任があるから。先のことはわからないが。そうですか、残念です、相談に乗ってくださりありがとうございました。彼は先に寝に行ったので勝浦くんに報告したが、頭では慢性失調症の被害妄想だと理解してもその対象が自分では、やはり腹に据えかねる様子だった。だが勝浦くんの態度にも問題はあるのだ」