人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(23)

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ではわれわれも注文を決めなければな、とスノークは言いました。なに急ぐ必要はあるまい。どうせ大半の連中はメニューを読めさえしないのだから、当てずっぽうにカブラのドンドコ煮とかトンビのパッパラ揚げなどを頼むに違いない。あれば幸い、なければ自業自得さはっはっは。
私もお兄さまに決めてもらうわ、とフローレン。だってメニューが読めないんだもの。もっと若い娘にもわかるように写真とか載せてくれないかしら。
フローレン、お前も誇り高きスノーク族なのだから、メニューが読めないなどと無防備に洩らすなどはしたないぞ。
ではお兄さま教えてくださらない?このメニューの中にユッケジャンクッパはあるかしら?ブリの照り焼き丼でもいいわ。
フローレン、ここはレストランなのだぞ、お前が修学旅行で行ったという北の家族ではないのだぞ。それに私だってこんなメニューは読めん。どこの外国語だ?架空の南米植民地語か?
お兄さまに読めないなら私お手上げだわ。
お手上げ。
・両手を上げる兄妹
だからといって学識ある博士たちや無いものでも出させるムーミン一家に訊くのはスノーク族の名折れだからな。私の名前が折れたらス・ノークスノ・ークでス・ノーマン・パーの同類みたいだ。お前ならフ・ローレンス・ノークでまだましだがな。これがお前がノンノンだった時なら滑稽極まりないぞ。
昔の話は止めて、と旧名ノンノンはぴしゃりと言いました。というのはそれは彼女が遊廓に売り飛ばされていた頃の源氏名で、彼女は従順かつ卑屈に強制労働に従事しましたが結局両親は遊廓の食材にされてしまったからです。当時留学中の大学生だった兄はまんまと家督を継いだので二年間で総額七万五千フランを使い果しました。
そういう事情でフローレンは内心兄を憎悪していましたが、ムーミン族同様スノーク族も男尊女卑の長子相続制ですので、幸いムーミンとの政略結婚もムーミン谷では暗黙の了解、兄への復讐は機が熟してからでも遅くはありません。ムーミン族もスノーク族も、男は見た目通りのうすのろですが女は心底腹黒いのです。おお怖わ。
だからさ、とスノークは妹をつゆ疑いもせず言いました。谷の連中がなにを頼むか、その様子を見て参考にしようじゃないか。私もこんな本を持ってきた、と取り出した本は、
ムーミン谷レストランの歴史
…どうしたんですかそんな本、万引き?