人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(24)

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万引き?失礼な。私が万引きするのは食料品だけ、しかも廉価な缶詰類だけだということくらいお前だって承知しているだろう?だいたい万引きなど問題にするのは本当の貧乏を知らぬ証拠だぞ(せせら笑う)。
(殺意を抑えながら)そうかしら、私は本当の貧乏は知らないものだから。
では教えよう(尊大に)真の貧乏とは、例えばこういうことだ。七万五千フランの遺産を相続してウンコにハエがたかるようにちやほやれ、気づくと預金は小銭程度しかない。友人にも女にも去られ禁治産者となり、後見人の承諾がないと何もできない。
自業自得ですわね。
そうだ、だがそこで初めて開けてくる世間の実相というものがある。それは金持ちと貧乏人とは違う、ということだ。つまり七万五千フランあった時の私は金持ちだった。だが使い果してしまった私はただの貧乏人なのだ。わかるか?
・馬鹿は金持ちでも貧乏でも馬鹿
とフローレンは思いましたが、親の遺産についてはフローレンは知らないことになっています。ですので、わざととぼけて、お兄さまがそういう目にあいましたの?と訊きました。
ん?もちろんこれはたとえばの話だ。聞けば父上と母上が市場で食肉にされていた時、お前はいかがわしい店で働いておったというではないかノンノン。
昔の名前は止めて。
・気まずい沈黙
お兄さま、その本について教えてくださらない?お持ちになったのは、なにか役に立つ本なのでしょう?
おおそうだ、肝心なのはその話題だったな。これはムーミン谷図書館から拝借してきたのだ。もちろん正規の手続きをして借りたぞ。あそこの図書館司書は呼ばねば貸し出しカウンターに出てこぬが、いつ行ってもセックスの最中しぶしぶ出てきました、という様子をしておるな。
・ビクッとする偽ムーミン(アホ毛が立つ)
・変装(外出時の習慣)した図書館司書、コルトを握りしめる
フローレンは聞き流して、お兄さまはもうお読みになりました?
そこなのだ、この本にはまず前書きがあって愛と平和とか余計なことが書いてあるようだがそれはいい。本文の始まりは、
天正二年
とある。それから白紙が続いて巻末近くに、
・昔
とあり、そして最後のページに、
・現在
と、どれも見出ししか書いていないのだ。
どういうことかしら。
私も考えたさ、そして思いついた。この本は知らないことは読めないのだ。