人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記222

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(人名はすべて仮名です)
・5月12日(水)小雨のち晴れ
(前回より続く)
「日記をつけるため手帳を開くと、3月24日全体会のメモが目についた。テーマは『最近思っていること』で、当時の座席順に柳瀬、渥美、松本、清水、冬村、杭瀬(欠席)、加山、木島、仲村、勝浦、佐伯、滝口、梅崎、山崎、今村、金田、森下、三田と並んでいる。まるでムーミン谷に住んでいるような気分になる。ような、という副詞も不用なくらいだろう。アリスの落ちた穴や鏡とまではいかないがこれは、ほとんどムーミン谷でトロールの一匹になりトロール仲間と暮しているようなものだ」

「夕食になぜか金子は出てこなかった。金子は一床部屋なので看護婦が訊きにいき、食事不要とのことで下膳する。今日の夕食は病院食ではかなりの豪華な天ぷら盛り合わせだったので、好き嫌いが激しい勝浦くんも天ぷらなら野菜もうまいらしく、おれが二人前食えるのに、と無念がる。同じテーブルでこっそりお裾分けならともかく、本人不在のものを勝手に食べたり、または金子の了解で譲ってもらってもバレている以上看護婦が許すまい」

「昨日移室、というより泣く子も黙る久里浜病院から転院してきた身長188cmの池田くんは、おそらくアルコール依存症だけではなく統合失調症と思われる動作や表情があるが、修士号取得の一級建築士だという。夕食後もデイルームの自分の席でノートを開いて建築デザイン作成に没頭していたが、自室のベッドサイドのロッカーでは手狭にせよ降谷が突然歌い出したり、坂部が呵々大笑したりと騒々しいデイルームより図書室があるだろう。図書室にも人の出入りはあるから、所定の自分の席の方がいいのかもしれない。だがこの環境で没頭できるのは、かえって尋常ではない」

「彼も転院して昨日まで第三病棟で待機していたのだが、工藤や青柳ばかりでなく病院の対応に怒っている人が多いですね、と案外まともなことを言う。たぶん第三病棟がそんな具合だから第一病棟(慢性一般科)にも第二病棟(アルコール科・急性一般科)にも移室できる容態に安定しない患者が多いのだろう、と想像できる。夕方の婦長への怒りも治まってきた。明日はシーツ交換、主治医診察、環境整備(消毒)、グループワーク、夕食後はAAメッセージがある。忙しく、重要な一日になりそうだ。なにしろついに退院日を決めるのだから」