人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

(再録)山村暮鳥の初期詩編

画期的詩集「聖三稜玻璃」1915.12以前に山村暮鳥(1884-1924)は「La Bonne Chanson」1910.8、「三人の処女」1913.5がある。暮鳥のややこしさは創作と刊行順が前後したり、「三人の処女」のように原編集版と改訂編集版があり、島崎藤村序文の後者は改訂前とは別物と言える。ここでは著者生前に刊行された後者から引こう。

『三人の処女』

指をつたうてびおろんに流れよる
昼の憂愁、
然り、かくて縺れる昼の憂愁。
一の乙女をSといい、
二の乙女をFといい、
三の乙女をYという。
然してこれらの散りゆく花が廃園の噴水をめぐり、
うつむき、
匂いみだれてかがやく。

びおろんの絃よ!
悲しむ如く、泣く如く
哀訴の、されどこころ好き唄をよろこぶ
銀線よ!

昼の憂愁……
(詩集「三人の処女」1913より)

明治末期に流行した口語・文語折衷の象徴派自由詩(白秋、露風など)とほとんど変わらない。

『黒いもの』

見よ、おそろしい「時」の前兆(しるし)に
ひなげしの花は美しく、
夜のかがやきに美しく、
音もなく萎れて散った。

黒いもの、
夜のかがやきに美しく、
その上に雨がふる。
(…)

やすらかに美しく、
心にかえる悲哀よ、
わたしらの園は廃れて
その上に雨がふる。
(同詩集より)

だが中には来るべき「聖三稜玻璃」の予感を示す作品がいくつかある。

『午後』

いばらのはなのかなしみ…
あかいこころの、
はかなさぞ
とりとめなく…
いのちのようなはなのうろこはおち、
つちのうえに
まぼろしをえがける。
かじやのかべはひわれて
とんかんとひねもす、
まぼろしをえがける。

それもみみなれし
ふうふもの、
われとわがいばりをみつめ、
さみしさにわらうあかんぼ。

ひるすぎのにわの
あまいつかれよ
あかんぼのゆびのさきまで
ひかげは
おともなくはいよる。

『騒擾』

その曲線を見よ、
あやしき光のだんすを…
静かなる蝿の後より陰影(かげ)は
ものの匂いを嗅ぎ廻る
黄に悩むSYMPHONIE
床の上なるなつかしさを
とりかこむ気圧よ、
何事もなし、
検温器に眠る水銀。
(同詩集より)