人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(45)

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ここに来る前と来てからのおれ、正確には来て放浪者になってからのおれは、まるで別人のようだ。それは放浪生活を始めたからなのか、放浪生活を強いられているからなのかはおれ自身にも区別がつかなくなっている。だいいちそれ以前からおれの仕事は町から町へと、そういっても実際は町どころか辺境の村のような土地ばかりに派遣されていたので、おれにとってはもう昔から旅がすなわち仕事のようなものだった。
しかし旅と放浪はまったく違う。旅には目的があり、放浪には目的がない。というよりも旅とは手段であり放浪とは状態なのかもしれない。おれは目的を与えられてこの土地に来たはずだし、自分のための食糧は現地調達できるとふんでいたものの事務所に託されあいさつの折のお土産まで持ってきた。おれさえ口にしたことのない菓子だ。
・亀屋萬年堂のナボナ
だがそれも廃棄処分する、と没収されてしまった。本当に廃棄されたのかはわからない。甘くてうまそうな菓子なのは開けて見ればわかるはずだ。ここは警察国家か?仮に警察の官令だとしても民間人、ましてや公務に招聘された外国籍人から私物を巻き上げるのが許されるのか?少なくともあれは、あの時点ではおれが事務所から預ってきたものだった。
・喰っときゃ良かった
とりあえず鞄本体とコートを没収されなくて良かった…連中もこれは見やぶれなかったわけだ。なにしろおれは宿屋もないような辺境にも慣れてる。鞄から金具を抜いてコートの骨組みにするとなんとか頭から膝までが入るテントができあがる。膝から下はブーツで隠れるから問題ない。鞄は厚手の革を何層にも重ねてできていて、内側にボアがあるから、拡げて筒状にすればこれも膝までの寝袋になる。旅慣れていて良かったと思うのはこんな時だ。
・良いわけない
なぜおれは変ってしまったと思うのか、おれを変えてしまったのは何か、それは招かれたにもかかわらず放りだされ、来たはずの道も引き返せなくなっているからだが、今やおれは水鏡にも影さえ映らなくなっている。光すらおれの体をすり抜けるということは、おれの肉体自体がすでに光の粒子なのだ。
だがこの悪臭!そして料理らしきもの?だとすれば悪臭と料理のどちらかが幻覚なのだ。そしてここは、どうやらレストランのようなのだ。
ですが悪臭はスナフキンの知るどんなドブよりひどい臭いがしました。