人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(47)

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ムーミンパパの無駄話と食前の飲み物の追加注文で、すでに運ばれていたスープからすっかり気がそれていたのは、偽ムーミンには偶然の幸いでした。熱い状態でのそれは、おさびし山の岩をも溶かし、海水浴場にまけばあらゆる水中生物の息の根をとめる猛毒だったのです。それはかつて水爆実験の余波でよみがえった巨大で凶暴な古代生物すら数分で白骨化させました。これを俗に、
・毒を持って毒を制す
といいます。
それほどの猛毒が冷めるとただのスープになるのは、無視されるとそっぽを向く若い娘のような性質だからでした。ですが冷めてしまうと意地でもおいしいスープになって食客を堪能させようという一面もあり、ムーミンたちの知らない世の果てではこれを、
ツンデレ。と、
呼んだ時代もありました。また重ねて幸いなことに、このスープは例によって強烈な悪臭を放ちましたが、外部には臭わず、熱いうちに飲んだ当人だけに猛烈に臭う、というしかけがありました。でもどっちみち冷めてしまったのだから関係ないのです。
ムーミンパパが黒ビールを飲み干してじーっと(偽)ムーミンを見つめ、ムーミンママもやはり目を細めてじーっと(偽)ムーミンを見つめ、その気配からスノークとフローレンも(偽)ムーミンをじーっと見つめ、ヘムレンさんとジャコウネズミ博士もじーっと(偽)ムーミンを見つめ、ヘムル署長とスティンキーも(偽)ムーミンをじーっと見つめ、トゥーティッキとモランとフィリフヨンカもじーっと(偽)ムーミンを見つめ、ミムラとミイの35人兄妹も(偽)ムーミンをじーっと見つめ、トフスランとビフスランもじーっと(偽)ムーミンを見つめ、見えないスニフはあえて(偽)ムーミンから目をそらしてじーっとこらえ、スナフキンはじーっとテーブルクロスを見つめ、ニョロニョロはただニョロニョロしていました。
(偽)ムーミンは自分にそそがれた注目にたじろぎながら、思い切ってスプーンを手に取ると、冷めたスープの皮を破ってひとくち、すすってみました。ん?
どうだねムーミン
おいしいよ。何のスープかわからないけど。
レストランじゅうがホッとしました。どれどれ、とムーミンパパそしてママ。
ムーミン!これのどこがうまいんだ!
ムーミンパパは蒼白でした。スープはやはり心変わりしていたのです。
しかもまずいことに偽ムーミンは利き腕をまちがえていました。