人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(60)

イメージ 1

ええと続きだ、どこまで話は進んだっけ?
ヘムル署長たちがのテーブルを直したところだよ、と偽ムーミン
ですがヘムル署長たちの関心はもうとうに次の話題に移っていました。ムーミン谷の住民が争いごともなく平和に共存しているのは、他ならぬ時間感覚のズレが所属グループごとに明確だからです。ムーミンパパとジャコウネズミ博士が同時に同じ高さのテーブルから皿を落としたとすると、博士の皿が床に砕けた時にはまだムーミンパパの皿は床まで三分の一も届かないでしょう。これは一見ムーミンパパ圧倒的不利で、同じ性能のピストルで撃ちあいをしてもヘムル署長の弾丸はムーミンパパの弾丸の三倍の速度で到達します。
ですが実戦ではこの相対速度差が相殺するので、ムーミンパパはピストルの弾丸よりも速く移動できますから、ヘムル署長の最初の弾丸さえ避ければヘムル署長が第二・第三の弾丸を撃つより前に、自分の弾丸すら追い抜いて署長の手からピストルを叩き落し、こめかみにゼロ距離射撃をお見舞すれば着弾速度は問題外ですので勝負は決ります。
うっ、とひと声うめき、全身をびくっと震わせると、ヘムル署長の死体は床にうつぶせに横たわりました。左のこめかみからは赤ワインの瓶を倒したかのように鮮血がかさを増して流れ、レストランの床に血だまりになりました。
なんてことだ、とジャコウネズミ博士、この店の床は傾いているぞ。血だまりにムラがある。私もいま気づいた、とヘムレンさん、直すべきだな。
店じゅうの客はそれを聞いて、代表を立て食事中に直させよう、でなければ料理は食い逃げしよう、とガヤガヤし始めました。悪い予感がしてスティンキーは、みなさん食い逃げは犯罪ですぜ、とおそるおそる訴えました。もしそうなれば全員食い逃げは認める、だが主犯はスティンキーだと言うのに決っています。
ムーミンパパは席に戻るとまだ床に落ちる途中の皿を拾い上げました。追加の黒ビールを頼んどいて良かった、なんだか騒々しくなってきたようだな。
博士らも席に戻りました。署長も起き上がると席に戻り、一本取られたよ、私より軍事最高官は適任者がいるようだ。そうか、勝負の公平性には若干の残尿感があるがね、まあ男と女の残尿感には違いがあるかもしれんが、と博士。では軍事最高官はムーミンパパで決りかね?そうだな、就任前に引責処刑はどうだ?
第六章完。