人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記247

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(人物名はすべて仮名です)
・5月18日(火)晴れ(明後日退院)
(前回より続く)
「滝口さんへのメールをなんとか間に合わせ、点呼を済ませて一服し、これまではこまめに空いた時間ごとに日記をつけていたがあんまりロッカーから出し入れするごとに鍵をかけていると、他人をこわがってデイルームには出てこず、もちろん煙草もやらず、ほとんど部屋で不安そうに聖書を読んでいる吉村くんがまた何かの拍子で被害妄想をつのらせるかもしれないと思うと日記も書けない。なにしろ勝浦くんが経歴調査しているのではないか、と本気で疑っていたくらいなのだ。入院中にどうやって調べるのか、興信所か?一体だれが関わりもない相手を興信所にまで調べさせるというのだろう」

「ちょっと書いてはロッカーに入れ鍵をかけ、などという姿をそうたびたび見られては、何か他人に見られては困ることでも書いているんじゃないかと妄想を刺戟しかねない。たぶん勝浦くんとは友人であっても共謀者とは思われなかったのは佐伯和人だったから、つまり所属教会の先輩信徒だと名前だけ知っていたからで、そうでなければ勝浦くんと親しくしている、実際には同室で隣席だっただけなのだが、それだけでこちらも疑いの的になっていたかもしれないのだ」

「とにかく体育の授業からずっと外履きを履いていたので部屋履きにも履き替えたいし、明後日の退院に備えて持ち物の整理や、なにより静かな場所で座るか横になるかしたいので部屋に戻るしかない。案の定、柴田くんと吉村くんは各自のベッドで寝そべっていた。彼らはアルコール科の患者のように患者同士で共同作業させられるようなこともないから、仲が悪いわけではないが入院しても共通の話題はないし、アルコール科が特殊なのだが普通患者同士は自分の病歴のことを同病者には話さない。彼らに入院までの生活環境については聞かされたが、どのような症状が発症したかは彼らも具体的には言わず、入院回数や今回の入院予定期間を教えてくれたくらいだった。そういえば勝浦くんは片っ端から他人の病相を訊いて回る悪習があった―あながち吉村くんに疑われても仕方ないような面があった、ということだ。吉村くんが入院してきてからはどうだったか?毎日のように退院と入院があったので、むしろ勝浦くんの許容範囲を越えた変化にピリピリしていたと思う」
(続く)