人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

偽ムーミン谷のレストラン(70)

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ウェイターは突然マイクを持って現れました。服装も燕尾服に着替えています。それではみなさま、とウェイターは壁に向って体を斜めにし、当店がお送りする歌姫の舞台をお楽しみください。
しまった、音楽料金を取られる店かもしれんぞ、とムーミンパパ。食事だけなら踏み倒す自信がある、トロールが飯など食うか!で済むが歌となると聴かなかった、では済まされんぞ。
壁が左右に開くと舞台が現れ、そこに妙齢の乙女がライトを浴びて立っていました。あの人が歌姫、とミムラの胸はときめきました。そして歌姫は歌い始めました。

サッちゃんはね
サチコって いうんだ
ほんとはね
だけど ちっちゃいから
じぶんのこと
サッちゃんて よぶんだよ
おかしいな サッちゃん

聴いていたみんなの心が暖まっていく気持になりました―トスフランとビフスランを除けば。この夫婦はおたがいしか眼中にないのです。ですがはっきり逆鱗に触れられた気分になったのはミイでした。なによ、私は自分のことミイちゃんなんて呼ばないわよ。そんな思いも知らず、歌姫は続けます。

サッちゃんはね
バナナが だいすき
ほんとだよ
だけど ちっちゃいから
バナナを半分しか
たべられないの
かわいそうね サッちゃん

ああ、入院で出てきましたよ、とスノーク。変った魚でしてね、生で食べられますが皮を手で剥いて、身は均一で甘味があるんです。だったらそれは魚卵の房なのではないかね?ああ、なるほど、納得しました。
トゥーティッキさんは貧しかった少女時代を思い出していました。家族四人で缶詰め一個がごちそうでしたからバナナは皮まで焼いて食べたもので、彼女を魔女にしたのも食への怨念でした。そして歌は最終連に入りました。

サッちゃんがね
遠くへ いっちゃうって
ほんとかな
だけど ちっちゃいから
ぼくのこと
忘れてしまうだろ
さびしいな サッちゃん

上品な拍手と少々卑猥な掛け声が店内に響きました。わかんないや、と偽ムーミン、友だちでもないのに?ムーミン、サッちゃんは天国へ行ったのだ。きっと闘病生活だったのだな。
ブラボーお嬢さん、とムーミンパパは立って拍手しました。お名前を教えてくれないかね。
チュチュアンヌです、と魔法少女は言いました。歌い料一億万円ローンも可。
第七章完。