人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

アル中病棟入院記251

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(人物名はすべて仮名です)
・5月19日(水)晴れのち雨のち曇り(明日退院)
(前回より続く)
「患者同士で病気談義していても結局なるべく現状を否定的にはとらえないようにしよう、というのだけはマナーだし限界でもある。吉村くんに安心しました、佐伯さんは主に授けられた力をお持ちなんですね、と言われ、散々な目にあってきたからね、と喉元まで出かかったが止めておく。入浴時間になった。顔を合わせる人ごとにこれが最後でしょ、と声をかけられながら入浴を終える。これまで退院していった人を思い合わせても、この退院はことさら周囲の人たちを感慨深くさせているようだ」

「洗面器類を部屋に置いて一服しに行くと、看護婦が掲示板のあたりで竹内を案内していた!第三病棟から下りてきたのだ。ついさっき吉村くんに話していたのに、まさか下りてくるとはと動揺する。行動面では暴力的ではないといえ、メンタル面では完全に慢性化している竹内を解放病棟の第二病棟に移室させて大丈夫なのだろうか。しばらく後で喫煙室に行くと、尾崎、森下、江尻あと一人が先客でいて、こちらも一服していると竹内が入ってきた。やあ、と案外みんな平気で接している」

「彼らは比較的最近まで第三病棟にいたから、第三病棟の主みたいになっていた竹内とも接しているし、たぶん勝浦くん共々見せつけられた竹内の妄想全開モードを知らないから大丈夫なのだろう。明日が退院で良かった。竹内がどれほど病んでいるかを知りながら平然と接していられる自信はない。夕食後に部屋で吉村くんとまた雑談、余計な忠告めくが金子が近づいてきても避けること、松本さんなども裏商売でAV嬢~風俗嬢の斡旋やっていた人なのを教えておく」

「再び一服しに行くと竹内が一人。サシになるのは嫌だったが避けるのもあからさまなので黙って喫っていると、佐伯さん―もう知られたか、思い出したのか―本出してらっしゃるんでしたよね。誰かが話したのだろう。ええ、雑誌に書いたものが一度本になったようです。部屋に戻って、篠田くんと吉村くんに第三病棟でそういう話が出てたの?と訊いてみる。彼らは全然知らなかったのでならどこからだろう、第二と第三病棟の両方接点があるのは羽田有紗だ、と推測する。なるほど、と篠田くん。でも妄想が偶然的中したかもしれないよ。得体の知れない人ですね、と吉村くん」
(続く)