人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ジャックス『Live 68 '7 '24』

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 ジャックスはグループサウンズ・ブームの絶頂期といえる1968年春にデビュー・シングルを発表、前年末から『帰って来たヨッパライ』の大ヒットで話題を呼んでいたフォーク・クルセダーズとともにアンダーグラウンド出身グループとして注目され、評価はフォークルとジャックスでは五分五分と言えるほど高かったが、売り上げや観客動員力は乏しく、68年7月に東芝キャピトル・レーベルから発売されたフォーク・クルセダーズのアルバム・『紀元弐千年』が驚異的なヒットを記録したのに較べ、同年9月に東芝エキスプレス・レーベルから発売されたジャックスのアルバム『ジャックスの世界』はそれまでのシングル同様ほとんど売れなかった。しかもこのデビュー・アルバム発表時には個性的なリード・ギタリスト水橋春夫はバンドの財政難から音楽活動に見切りをつけて脱退していた。録音も大きな予算をかけたフォーク・クルセダーズと対照的に、ジャックスのアルバムは初日でLPのA面5曲、翌月B面5曲が録音された。ザ・ドアーズのデビュー・アルバムが一週間で録音されたのを連想させる。
 ジャックスはバンド・コンテストで彼らを見い出し、レコード・デビューを斡旋した渡辺貞夫の紹介で渡辺貞夫グループのドラマー角田ひろをメンバーに迎え、それまでドラムス担当だったマルチプレイヤー木田高介がサックス、フルート、ピアノ、ヴィブラフォン等にまわり活動を続けるが、セカンド・アルバム制作中にはリーダー早川義夫の意欲も低下。収録全11曲中早川が参加したのは早川の自作曲6曲のみで、他の曲では主に角田がヴォーカルを兼任し、ゲストとしてフォークルの加藤和彦、元メンバーの水橋春夫がギターで参加している。セカンド・アルバム『ジャックスの奇蹟』は69年10月に発売されたが、ジャックスはその二か月前には解散していた。

 デビュー・アルバム『ジャックスの世界』は完全無欠な傑作で捨て曲などひとつもない。バンドの演奏も早川のヴォーカルも最高のパフォーマンスを捕えており、セカンド『ジャックスの奇蹟』はやや分が悪い。だが早川参加曲はデビュー作と遜色ない。『ジャックスの世界』からは『からっぽの世界』と『マリアンヌ』の2曲だけ裸のラリーズ記事で紹介した。今回はまず『ジャックスの奇蹟』からの早川義夫の作・ヴォーカル曲を先にご紹介する。

ジャックス『堕天使ロック』'69
https://www.youtube.com/watch?v=48VwoygTEaI&feature=youtube_gdata_player
『花が咲いて』
https://www.youtube.com/watch?v=P7xU19fu9Ps&feature=youtube_gdata_player
『君をさらって』
https://www.youtube.com/watch?v=EM83peROiVY&feature=youtube_gdata_player
『ロール・オーバー・ゆらの助』
https://www.youtube.com/watch?v=oaBvUoCB3EQ&feature=youtube_gdata_player

 ジャックスには90年代から何度も再発売が企画されながら一度も再発売されていない幻のライヴ・アルバムがある。ジャックスは公式なアルバムですら70年代~80年代は廃盤が続き、手軽にCDで入手できるようになったのは92年の廉価盤再発以降のことだった。ジャックスの音楽は暗くて病的だから本人たちも短期間しか耐えられなかった、と言えるかもしれないが、ジャックスのような存在は日本のロックの出発点には不可欠で、今でも唯一無二の音楽として聴かれ続けられるだけのものがある。音楽以外の不純物が多すぎる(例えば文学性)、ジャックスなんか聴きたくないような時でも、この音楽の重要性と訴求力は認めざるを得ない。
 次に紹介するそのライヴ・アルバムはジャックス・ファンクラブが200枚限定で1973年に自主制作・領布したもので、一般流通はなかったと推定される。『ジャックスの世界』を4月と5月で録音完了し、水橋春夫在籍中のバンドの絶頂を記録しており作品価値は高い。
 音源は〈第二回ジャックスショウ〉として日仏会館で行われた単独コンサートで、これは当時ジャズ喫茶やナイトクラブ、ディスコ出演が普通だった日本のロック・フォーク界では大胆な試みだった。このライヴでは『ジャックスの世界』から全10曲中8曲、『ジャックスの奇蹟』に収録される2曲、シングルB面曲とラジオ放送曲が各1曲、さらに80年代に映画サントラ音源が発掘されるまでスタジオ録音が存在しなかった未発表曲『お前はひな菊』『由美子はいない』の、サントラ音源以上に壮絶な演奏が収録されている。この時、早川と谷野ひとし(ベース)は20歳、木田と水橋はまだ19歳と思うと恐ろしい。ジャックスの最高のアルバムは『ジャックスの世界』よりも、むしろこの、68年のライヴ盤かもしれない。
ジャックス『Live 68 '7 '24』released 1973 (private press)
https://www.youtube.com/watch?v=i-1cxZvo1Os&feature=youtube_gdata_player
(A)1.マリアンヌ/2.お前はひな菊/3.この道/4.時計をとめて/5.いい娘だね/6.由美子はいない/7.敵は遠くに
(B)1.Dm 4-50/2.薔薇卍/3.どこへ/4.裏切りの季節/5.ラブ・ゼネレーション/6.われた鏡の中から/7.からっぽの世界