人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(2)

 スヌーピー、やっぱりここにいたね、とチャーリー・ブラウンは犬小屋まで走ってくると、スヌーピーからすれば間の抜けたあいさつとしか受け取りようのない第一声を上げました。スヌーピーはタイプライターを芝生に出して、ウッドストックに口述筆記させている最中でした。この種目不明の雑種らしき小鳥はその実、有能な秘書なのです。
 (''''''''''''''''……!?)と、ダッシュと感嘆符だけでしか喋れないウッドストックスヌーピーを見やりました。これはチャーリー・ブラウンには小鳥のキーキー声にしか聞こえませんが、スヌーピーには言語として通じるのです。そしてスヌーピーの犬語はチャーリーにはテレパシー解読できますから、スヌーピーを通訳にすれば三者会談は成立するのですが、そもそもチャーリー・ブラウンウッドストックの意見に耳を傾ける発想がありませんでした。
 わざわざ自分を探しにくるのならそれなりの用があるのだろうと、スヌーピーはくりくり坊主の次の言葉を待ちました。スヌーピーは首輪はされていませんが、理容店ブラウン家の庭住まいですからたいがいは自分の小屋にいるのが普通です。チャーリーがことさら探すまでもありません。
 ルーシーがたいへんなんだよ、とくりくり坊主は荒い息で、肩を上下させながら言いました。よほど急いで来たのでしょう。スヌーピーはふーん、それで?と鼻先だけで続きを促しました。ウッドストックはいつもの冷静さで彼らのやり取りをスペルミス一つなくタイピングしています。どうたいへんかって……。
 ライナスの毛布を引きちぎったかと思うとピッグペンから埃をはたき落とし、あのフランクリンに人種差別的な暴言を吐きながらペパーミント・パティとマーシーのおしゃべりに割って入って眼鏡を奪うと踏み割り、シュローダーのトイピアノを叩き壊して走り出して行ったんだ。気がつくとライナスはリランのオーバーオールを被せられ、指をしゃぶろうとすると指がなかった。
 だからあと、とチャーリーは息せききって、言葉を継ぎました。ルーシーが標的に選ぶとしたらここなんだ。もちろんぼくのグローブもまっ先にこれさ、と彼はボロボロの残骸を未練惜しげにぶら下げました。チャーリーは自分のチームのピッチャー兼監督なのです。だから早く……何?
 スヌーピーは無言でチャーリーの背後を指差していました。もうルーシーは来ていたのです。