人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(3)

 チャーリーよりも早くルーシーの姿に気づいたとはいえ、スヌーピーは視力が弱く普段はコンタクトレンズを着けてました。今はたまたまレンズを着用し、またチャーリーの話から事態は予測できましたが、もしコンタクト着用でなかったら彼はルーシー以外の人影でも指差したに違いありません。もちろんビーグル犬ですから、少女と少年の区別は嗅覚で見分けることくらいできますが。
 眼鏡を良しとしないほどお洒落なスヌーピーでも、ヒゲを生やさなかったことは後悔していました。彼は恋多き性格で、何度か結婚寸前まで話が進んだこともありましたがいずれも破局してきました。そのうち最大の打撃は、結婚式の直前に媒酌人を頼んだ実兄のスパイクに婚約者を奪われたことで、兄とスヌーピーの違いはヒゲの有無だったのです(もっとも彼女はすぐに兄を捨ててコヨーテに乗り替えましたが)。
 そうしたいきさつもあって、スヌーピーのガールハントの対象は人間の少女になったのです。というよりは、スヌーピーは異性の気を惹かずには済まないタイプだったので、犬であろうと人間であろうと異性であれば良かったのです。スポーツ万能で、さらにさまざまなスポーツに挑戦しているのもモテるためでした。チャーリーの野球チームでも不動のショート、冬にはアイスホッケーにいそしみ、スケートリンクの製氷車の運転もこなして製氷車メーカーから表彰もされました。さらに耳を回転させてヘリコプターのように飛行することも可能です。成犬になってからは背中に大きな黒斑がありますが、確認した者がいないのはスヌーピーが誰にも決して背を向けないからでした。
 またスヌーピーはチャーリーと親しい女の子には、挨拶代わりや落ち込んでいる時等のなぐさめに、キスをすることがしばしばありました。ただし、まれにチャーリーにもキスをすることがあるので、深い意味はないのです。紳士のたしなみ、という程度のことでしょう。
 ですが、チャーリー・ブラウンから聞かされた話では、これらさまざまなスキルはルーシーの襲撃に何の効果もあるとは思えませんでした。だとすればチャーリーが危険な事態を予告しに来てここに居合わせているのは、かえってルーシーを刺戟することになりかねず、スヌーピーウッドストックにははた迷惑なことでした。