人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(4)

 スヌーピーの住む犬小屋は、外見では想像できないほどの伝説的な広大さを誇っていました。伝説的というのは、実際に小屋の内情を知るのはスヌーピー本人と唯一小屋への出入りを許された親友にして秘書のウッドストックだけであり、小屋を建てたチャーリーは自分でさまざまに手入れをほどこしたスヌーピーから小屋の現況を聞いているだけでした。
 スヌーピーやチャーリーによれば犬小屋の中には地下室に繋がる階段があり、地下室の玄関ホールにはトルコ織りの大層なカーペットが敷いてあって、観葉植物が置かれていたりスクリーンプロセッサーつきテレビやエアコン、さらには卓球台やピンボール台、ビリヤード台までもが設置してあるといいます。スヌーピーはテレビゲームもパソコンも嫌いなのです。
 しかも地下室、いや地下フロアはいくつかの部屋に区切られており、図書室や美術室、視聴覚室、取り調べ室、検査室、監禁室、手術室まであります。ライナスが世界の恐怖を察知して逃げ込んできたり、することもなくテレビを見ていたりすることもあるそうですが、ライナスの証言はパインクレスト小学校では単なる夢想としか見なされていないのです。
 居間には、かつてはゴッホの小品が飾られていましたが、不審火(ただし犯罪の可能性はなし)で焼失、その後はビュッフェの小品があるじには不本意ながら飾られています。これほど広大なので時々チャーリーやライナス、シュローダーが大掃除を手伝いますが、ぼんくらな彼らは掃除をしてきても何ひとつ観察してきたためしがありません。
 この犬小屋は、スヌーピーが宿敵である隣家の猫WW-2をからかうたびに頻繁に破壊されますし、時には飛行機や、また空の宿敵レッド・バロンとの対決では戦闘機となり、撃たれて穴だらけになったり煙を上げて炎上したりしますが、こうしたイレギュラーな機能性が原因で受けた被害は、チャーリーやスヌーピーが修復するまでもなく自然回復しているのが常でした。
 つまりこの犬小屋は単なる犬小屋ではなく、自分たちと同等の、生きている何かでした。それはすでに人格と肉体を備えたものでした。チャーリーが直感し、泡をくって駆けつけてきたのはスヌーピーの安否もありますが、むしろもっと悪い予感が的中したようでした。ルーシーはバットとシャベルを握りしめ、表情はあからさまに犬小屋の破壊を宣言していたのです。