人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(6)

 スヌーピーは知性を獲得するに従って、多くの仮装をするようになっていました。いわゆるコスプレであり、そのレパートリーは140を超えるとさえ言われています。ですが変装の多くが「世界的に有名な…」(The world famous...)という肩書きで始まるものが多いのは、この犬の虚栄と想像力の限界を表すものでした。
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・ジョー・クール(Joe Cool)……サングラスがトレードマークの大学生。キャンパスをぶらぶらしてガールハントをしている。
第一次世界大戦撃墜王(The World War 1 Flying Ace)……愛機「ソッピース・キャメル」を操縦し、さっそうと大空を駆け巡る操縦士。ゴーグル付き飛行帽を被りマフラーを締めた姿で「フォッカー三葉機(フォッカー Dr.I)」に乗るライバルのレッド・バロンとの空中戦を繰り広げる。夜になると戦地フランスの小さなカフェ(マーシーの家。給仕はもちろん彼女)へ行き、ルートビールを楽しむ。ウッドストックが担当整備兵やレッド・バロンの助手”ピンク・バロン”に、マーシーがフランス娘になりきることも多い(マーシースヌーピーを人間と思っているため)。
・小説家(Novelist)……毎回「暗い(真っ暗な)嵐の夜だった」(It was a dark and stormy night…)で始まる小説を愛用のタイプライターで書き続けていますが、出版社からは送り返され続けており、唯一出版された本もたった1部で絶版。ルーシーからアドバイスは受けていますがあまり参考にならないようです。
・法廷弁護士(Counselor)……山高帽(驚くと飛ぶ)と黒い蝶ネクタイを着用し、常に鞄を引きずって、名刺には「破産処理、財産管理、事故処理、医療問題、遺言検認、遺言書作成、そして、犬にかまれたときに」と書かれています。ピーター・ラビットや赤ずきんが顧客になったことも。公判の日に法廷の場所が分からなくなることもしばしば。
・ビーグル・スカウト(Beagle scout)……ボーイスカウト。隊員達はウッドストックをはじめとする小鳥達。ところが小鳥達は変わり者ばかりで思わぬ行動を取ってスヌーピーが困惑する事も少なくありません。
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 ですが今スヌーピーが陥っている危機には、それらの文化的擬態は何の役にも立たないことでした。しかも、彼には犬族の牙がなかったのです。