人生は野菜スープ~usamimi hawkrose diary

元雑誌フリーライター。勝手気儘に音楽、映画、現代詩、自炊などについて書いています。

ピーナッツ畑でつかまえて(11)

 第二章。
 スヌーピーが引き取られてからブラウン理髪店の庭の居心地の良い小屋に落ち着くまでには、二か月以上の内装工事がかかりました。その間チャーリーはどれだけパインクレストじゅうを買い物してまわらなくてはならなかったでしょう。スヌーピーもまた、早くもこの町で親友になったウッドストックを通じて小鳥の室内装飾職人探しにふけり(小鳥は器用なのです)、取りとめのない思案に暮れていたのでした。
 ずっと前から、彼は色彩の現す真実と嘘を知り抜いていました。ガールハントにうつつを抜かして片っ端から連れ込んでいた頃ですら、外国産の彫刻つきの、珍しい蒼白の木製家具を並べて、ばら色のビロードをテントのように広げ、布ごしの艶めかしい光りに女の子たちの毛並みがしっくりと溶け込むように工夫していたほどでした。
 この部屋はさらに、四方の壁に合わせ鏡が取りつけてあり、薄荷のお香を焚いた空気は彼女たちにまるでばら色の湯浴みをしているような陶酔を与えました。
 ですが、度を超したトリートメントや怠惰な生活から荒み弛んだ彼女たちの毛並みを少しは補えるこの甘い空気を恩恵としても、スヌーピーには彼だけがこの部屋で味わう特別で陰気な悦びがありました。それはいわば禍々しい過去や、失った倦怠の思い出を活気づけ、快楽に高めるための儀式でした。
 子犬時代への憎悪と侮蔑から、彼はこの部屋の天井に、コオロギを一匹入れた小さな針金のかごを吊していました。コオロギはケンタッキーの月の下でもあるかのように、ここでもよく歌いました。子犬の頃から親しいその虫の鳴き声をまた耳にすると、スヌーピーの目の前には母犬といっしょだった小屋の夕方の狭く重苦しい風景が現れ、あまりにも短かった子犬時代と突然の孤独が再び彼の体を引き裂くようでした。それは犬ならば逃れられない宿命でしたが……。
 そして彼の感傷は、もの思いにふけりながら半ば機械的に愛撫している相手がふと身を反らしたり、声を上げたり、笑ったりすればたちまち彼を現実に連れ戻し、彼を混乱に、それから現実への一種の復讐の感情に駆り立てるものでした。
 そんなのはもううんざりでした。新しい生活がスヌーピーを待っているはずでした。彼は現実にはもう十分に傷ついてきた、大人の犬だったのです。